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第3話 初めてのキス、久しぶりのキス

「まあ、俺がタチになるんならいいけどな」 「ありがとうございます……う、うう」 男は眼鏡を外すと、涙を拭っている。 「そんなにつらかったのか? 誰の体も知らないでいることが」 「……俺、もうすぐ結婚しなくちゃいけないんです」 俺は息を呑んだ。 「実家の旅館を継ぐために。だから、その前に……。将来の嫁さんに悪いのはわかってます。でも男と経験してみたい。今夜だけ、いけないことがしたいんです。……できることなら、抱かれるだけではなくて、抱くのもしてみたかったけれど……」 そんなに必死な理由なら……。俺は決心した。 「そういうことだったのか。誘い方が下手だから、断るところだったぞ」 「すみません。どんな誘い方でも聞き慣れてるはずだから、いちばん直球なのがいいと思ったんですよ」 「直球すぎるわ。処女と童貞をもらってなんて。えっと、おまえが泊まるホテルでするか」 「はい……って、ああ!?」 「どうした」 「俺の部屋、シングルです」 「ああ、それは大丈夫。宿はユネホテルだろ」 島でいちばん大きいホテルの名を言うと、男は頷いた。俺は、スマホに登録してある番号に電話をかけた。 「うわあ、すごい……」 男はスイートルームに入ると、あちこちを見ている。 「ユネホテルは、追加料金なしでスイートに変更できるんだよ。ひとりで泊まる料金とおんなじ。ここは、そういうことをするための島のホテルだからな。さ、しよっか?」 「はい!」 俺は男を抱きしめた。俺より胴回りが太い体を。男は強く、強く、俺を抱きしめた。 「名前はなんていうんだ?」 「大河(たいが)です。原田(はらだ)大河」 「強そうな名前だな」 「タイガーって意味じゃないですよ」 「もっと強くなれよ、大河。旅館、でっかくしろよ?」 「はい……」 「まずはどっちからしたい?」 「え?」 「どっちもしたいんだろ?」 「それじゃあ、抱きたい! 烏丸さん、お願いします!」 「わかった。もしどうすればいいか困ったら、教えてやる」 大河は俺を抱えた。 「おい、腰を痛めるぞ……」 「烏丸さんは軽いですよ」 キングサイズのベッドに降ろされた。ベッドの上でふたりでキスを交わす。 唇がふれた途端、痺れるような感覚が背筋を走る。懐かしい刺激に戸惑った。大河は音を立てて、俺の唇を舐めている。 「キスって興奮しますね……」 「そうだな」 「烏丸さんもですか」 「ああ。久しぶりだからな」 お互いのTシャツをめくり、手のひらで撫で回す。大河の手があまりにも熱くて、俺の息は乱れた。

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