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序章 百年戦争
平和に飽きた科学者が、あるとき、自分の性細胞を用いて、新しい愛玩動物をつくりだした。それは、ヒトの形をしていながら、ハツカネズミの耳と尾を持ち、目は血のように赤く、髪は雪のように白い、この世に未だかつて存在していなかった、愛らしい動物だった。
新しい愛玩動物は、“獣人”と商品名が付けられ、高い値段で富裕層に売られた。はじめこそ、倫理観について非難があったが、50年も経てば、ヒトは自分たちの性細胞から作られた動物を、商品として簡単に受け入れた。ヒトは獣人を、愛玩動物に、奴隷に、武器に用いて今まで通り平和に暮らした。
獣人は改良が重ねられ、ヒトの望む、愛らしく、従順で、多様な商品となった。課題となっていた、需要と供給のギャップも、ヒトの性細胞から一匹ずつ創り出すやり方から、獣人だけでの繁殖が可能になるよう改良されたことで、あらかた解決した。繁殖が簡単になると、獣人は一般家庭にも馴染み、珍しいものではなくなった。
しかし、愚かしいヒトは、獣人が、ヒトと変わらぬ知性を持ち、ヒトのように喋り、ヒトのように愛を持つ生き物であることを、長いこと忘れていた。獣人はヒトをひどく恨み、その恨みは緩やかに、ヒトの首を締めていった。そして、ついに恐れていたことは起こった。
長い間虐げられてきた獣人は、はじまりの獣人の合図で、世界を根底からつくり変え始めた。目的は、ヒト族の一掃。新しい世界の創造である。
ヒト族と獣人族の、長い戦争が始まった。はじめこそ、ペットや奴隷にご主人様が負けることなどありえないと言われていた。しかし、ただのヒトと、獣の力を持ち身体能力も高い獣人の間には、大きな力の差があった。鮮血の雨が街に降り注ぎ、ヒト族の長い歴史と積み上げてきた文明は瞬く間に消え失せ、百年後、ヒトは地球上から、その姿を完全に消した。
これが、後に新しい“人類”に語り継がれることになる、百年戦争である。
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