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第1話 女装レンタル部の先輩と後輩
非公式で作られた部だと聞いている。
だから当然、部室もない。
従って、更衣室もないのだ。俺が所属している、「女装レンタル部」という部には。
だから仕方なく、こうして男子トイレで着替える羽目になる。
俺はスカートのジッパーを上げ、はあとため息をついた。
個室を出ると、幸いトイレには誰もいなかった。
このB棟三階のトイレは、なかば全校生徒公認で、女装レンタル部の着替え場所になっている。
そのため、めったに部員以外とはちあわせることはないのだが。
俺は鏡をのぞき、
「まつ毛がなあ……やっぱりつけまに挑戦すべきなのか……?」
「いや、ハルキはそのままでいいと思う」
「うわあああっ!?」
いきなりの声に驚いて振り向くと、そこには、二年生の水原修也 先輩が立っていた。
「しゅ、修也先輩! え、今どこにいたんですか!?」
「どこって、個室の中だけど。ドアを開けていただけで」
この人はいつも、無感動というか、ひょうひょうとしゃべる。
俺もどちらかというと無愛想だと言われる方なのだが、修也先輩は、顔色ひとつ変えるところを誰も見た事がないというくらい、感情の動きが乏しい。
「ドアは閉めてくださいよ!?」
「この時間は、どうせ誰も来ないだろう」
「そうですけど。……修也先輩、そのウィッグ、やっぱりよく似合いますね」
ライトブラウンのセミロングのウィッグは、修也先輩のトレードマークだった。
百七十センチと少しの背。すらりとした体躯と、丈の長いワンピースからのぞく細い足首。
女性的でもあり、男性的でもある顔と体。
女装レンタル部――女装した部員が、男女問わずデート相手を務めますという世紀末なこの部の、レンタル数ナンバーワンが修也先輩だ。
なお、俺は二十人ほどの部員の中で、中の上といったところ。
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