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第2話 あなたを好きな理由

「ハルキこそ、その黒いロングのウィッグがよく似合っている」 「……俺なんてフツーですよ。先輩とは比べ物になりません。俺は、服もうちの制服ですし」 「比べるものじゃない。ハルキが四月に入部してから、もう二ヶ月か。……ミニスカートが似合う足になったな」 「い、いちおうケアしてるんで。……姉ちゃんとかには、笑われてます。足だけエロいって」 「いや。ハルキはほかもエロいぞ。目とか」 「どういう目ですかっ? 俺、一重だし……」 「一重は一重でいいじゃないか。なまめかしくて。もっと俺をにらんでくれ」 「なにフェチなんですか……」  いつも通りの軽口を叩きながら、簡単なメイクまで済ませ、トイレを出た。  一緒に階段をおりる。  昇降口を出たら、別行動だ。  今日俺をレンタルしたのは、この街に住んでいるというサラリーマン。  修也先輩の相手は、この学校の三年生の女子らしい。  俺たちは、お客とは「普通のデート」しかしない。 「それ以上」を求めるのなら、学生なのでお相手できません、というのがルールだった。  表向きは。 「修也先輩は、今日泊まりですか?」 「ん。いや、違う。相手も未成年の女子だしな。泊りはなにかとややこしいから、ハルキも気をつけろよ」  二階の踊り場には、ほかに人の姿はない。俺は思い切って訊いた。 「あの俺、変な噂聞いたんですけど。修也先輩のリピ率が異常に高いのって、その……」  修也先輩が足を止めた。  俺ははっとして顔を上げる。 「『普通のデート』以上のことはしていない。もちろん、余計な金ももらっていない」  先輩が俺の顔を間近で覗き込みながら、言った。  やばい。  最悪だ。 「ち、違います。俺、先輩を疑ってるわけじゃ」  先輩は、ふっと笑った。 「分かってる。噂になっているのもな。だが、俺は自分の女装を、そんなことに使うつもりはない」  分かってます。先輩のことは、信じてます。 「それはそうとハルキ、そのネイルはつけ爪か? かわいいな。梅雨時にスカイブルーというのがいい」  ぞく、と俺の背筋に、くすぐったい快感が走った。  ああ。  そうです。  俺が女装する理由は、女装していれば、先輩がそうやって、俺のことを褒めてくれるから。  初めて会った入学式の日に、女装姿の先輩が、俺の目や、指や、肩口を、かわいいと言ってくれたから。  まるで、俺の体に、大切な価値があると信じ込ませてくれるかのようだから。  

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