3 / 6

第3話 つらくてつらくてたまらない

 昇降口には、すぐに着いてしまった。  校門で、先輩をレンタルしたという女子が手を振っている。 「それじゃ行ってくる。ハルキも頑張れよ」 「はいっ」  俺は、膝上のスカートを翻して、早足でその場を後にした。  そしてスマートフォンを取り出して、到着しているメッセージを確認する。 <ホテルに着きました。今日はよろしく。チップも用意していますよ>  今日の客は、三十二歳だというサラリーマン。  女装するようになってから、客が増えた。  先輩。俺の体は、全然かわいくなんかないですよ。  こっぴどく汚れてます。ここに入る前から。  俺は一度だけ後ろを振り返った。  さっきの女子と修也先輩は、腕を組んで歩いている。  嫉妬なんかするな。あの女はお客だ。ただの客。でも――  でも。  修也先輩には、「彼女」がいる。 ■  俺が初めて女装したのは、入学式の直後に女装レンタル部に入部した、その日だった。  毎年、新入生が入部した日などの節目には、視聴覚室を借りて、部員全員揃って女装する。  この日に、新入生は女装してオリエンテーションを受けることになる。  俺が選んだ衣装は、自分の高校の女子用の制服だった。  本当にただ女子の制服を着ただけの俺に、メイクまで含めて完璧な女装をした修也先輩は、 「やはりいい。君にはいい素養がある。かわいいな」  と言ってくれた。  その時にはもう、俺はあの人を好きになっていたと思う。  自分を売り慣れて、こんな体にはなんの価値もないと思っていた時期に、あの誉め言葉はあまりにも胸の奥に響いた。  それも、こんなにきれいな人が。  こみあげた涙が即座に渇くほどのショックを受けたのは、その直後だった。 「修也、今日も決まってんね。お、この子かわいいじゃん」  そう言いながら修也先輩の肩に腕を回したのは、サラサラの長い金髪――地毛だと後で知って驚いた――に修也先輩と同じくらいの背丈の、人形のように美しい先輩部員だった。 「あたしは九条要(くじょうかなめ)。修也と同じクラスで、修也の彼女だよ」 「……え? 彼女?」  そう言って固まった俺に、要先輩はあっけらかんと言った。 「そ。女装だけど彼女。女の恰好してる時は、一人称は『あたし』だし。よろしくね」 ■  ホテルに着くと、部屋番号を確認して、ドアの前に立った。  これから俺、また、知らないおじさんといやらしいことするんだな。  要先輩は、修也先輩と、今日はそういうことするのかな。  ……あの二人は、どんなふうにするんだろう。  そんなことを考えると、胸をつかんでうずくまりそうになる。  やめろ。そんな苦悩には意味がない。

ともだちにシェアしよう!