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第3話 つらくてつらくてたまらない
昇降口には、すぐに着いてしまった。
校門で、先輩をレンタルしたという女子が手を振っている。
「それじゃ行ってくる。ハルキも頑張れよ」
「はいっ」
俺は、膝上のスカートを翻して、早足でその場を後にした。
そしてスマートフォンを取り出して、到着しているメッセージを確認する。
<ホテルに着きました。今日はよろしく。チップも用意していますよ>
今日の客は、三十二歳だというサラリーマン。
女装するようになってから、客が増えた。
先輩。俺の体は、全然かわいくなんかないですよ。
こっぴどく汚れてます。ここに入る前から。
俺は一度だけ後ろを振り返った。
さっきの女子と修也先輩は、腕を組んで歩いている。
嫉妬なんかするな。あの女はお客だ。ただの客。でも――
でも。
修也先輩には、「彼女」がいる。
■
俺が初めて女装したのは、入学式の直後に女装レンタル部に入部した、その日だった。
毎年、新入生が入部した日などの節目には、視聴覚室を借りて、部員全員揃って女装する。
この日に、新入生は女装してオリエンテーションを受けることになる。
俺が選んだ衣装は、自分の高校の女子用の制服だった。
本当にただ女子の制服を着ただけの俺に、メイクまで含めて完璧な女装をした修也先輩は、
「やはりいい。君にはいい素養がある。かわいいな」
と言ってくれた。
その時にはもう、俺はあの人を好きになっていたと思う。
自分を売り慣れて、こんな体にはなんの価値もないと思っていた時期に、あの誉め言葉はあまりにも胸の奥に響いた。
それも、こんなにきれいな人が。
こみあげた涙が即座に渇くほどのショックを受けたのは、その直後だった。
「修也、今日も決まってんね。お、この子かわいいじゃん」
そう言いながら修也先輩の肩に腕を回したのは、サラサラの長い金髪――地毛だと後で知って驚いた――に修也先輩と同じくらいの背丈の、人形のように美しい先輩部員だった。
「あたしは九条要 。修也と同じクラスで、修也の彼女だよ」
「……え? 彼女?」
そう言って固まった俺に、要先輩はあっけらかんと言った。
「そ。女装だけど彼女。女の恰好してる時は、一人称は『あたし』だし。よろしくね」
■
ホテルに着くと、部屋番号を確認して、ドアの前に立った。
これから俺、また、知らないおじさんといやらしいことするんだな。
要先輩は、修也先輩と、今日はそういうことするのかな。
……あの二人は、どんなふうにするんだろう。
そんなことを考えると、胸をつかんでうずくまりそうになる。
やめろ。そんな苦悩には意味がない。
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