4 / 6

第4話 泣いてたまるか畜生と泣く

 意を決して、ドアを開ける。 「こんにちは、ハルキです――」 「いらっしゃい」  その声を聞き、その姿を見たとき、つま先から頭のてっぺんまで、冷たい電流が駆け上がった。 「ほら、入っておいでよ。どうしたの、突っ立って」 「な……んで……」  ベッドに座った要先輩は、赤いロングスカートの中の足を組み、さらりと金髪をかき上げる。 「修也は目立つから、やっかみもあってあることないこと言われてるけどね。君も、噂になりつつあるよ。……嘘じゃなかったみたいだね」  立ち上がった要先輩は、俺の腕を引いて、ベッドに倒した。 「こういうのは禁止だって、さんざん言われたはずだな? なのになぜだ?」  要先輩の声が野太くなった。俺は完全に混乱して、なにも考えられず、問われるがままに答えてしまう。 「……お金が、ほしくて……うち母さん一人で、ずっと苦労してきたんです……そんな時に、知らないおじさんが、一時間で何万円もくれるって……最初は、意味わからなくて……それからは、こういうものなんだって……」 「へえ。じゃあ、相手があたしでもいいんだ?」  要先輩は、いつの間にか笑っていた。 「……え?」 「女の格好してても、性欲は男じゃん。需要と供給があるでしょ? お金もあげる」 「な」  要先輩が覆いかぶさってきて、俺のスカートの中央に膝を置いた。  俺の両肩も、手のひらで押さえつけられてしまう。 「ずっと、ハルキくんとこうしてみたいと思ってた」 「なに言ってるんですか……修也先輩が知ったら」 「修也は知ってるよ」  要先輩の一言一言に、思考が停止しかける。  その隙に、要先輩の手が俺のスパッツの中に滑り込んで、腰骨のあたりにじかに指が触れた。 「あっ!」 「ん? ハルキくんて処女?」  俺は、また絶句した。なぜ、それくらいで悟られてしまうのか。すべて見透かされているような気がして、空恐ろしさで体が固まる。 「え、君、ほんとに? こんな仕事してて? ……ふふ」  なにがおかしい――と思ってから、半分はカマかけだったのだと気づいた。畜生。 「つまり君は、今まで、『男役』だけやってきたってことだ。意外! あはははははは」  顔が熱い。ひどく赤面しているのが自分でも分かった。畜生。泣いてたまるか。畜生。

ともだちにシェアしよう!