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第125話

「……咲也君?」 夜も更けた夜中の2時に綾人は喉が渇いたと自分に纏わりつく門倉の腕の中をかい潜ってリビングにお茶を飲みにやって来た。 そこには咲也が一人、ソファの上にポツンと座っていて綾人が声をかける。 途端、弾かれたように顔を上げて振り返る姿は泣き出しそうな幼い子供のようで、二人分のお茶をコップに注いで綾人もリビングへと向かった。 「どーしたの?」 ふわりと微笑み、お茶を手渡すと咲也は綾人から視線を外しながらコップを受け取る。 「……別に」 「渉君と寝ないの?」 「……」 「喧嘩でもした?」 「……」 何も話そうとしない咲也に綾人はこれ以上聞いても無駄かと、隣に腰掛ける。 喉の渇きを潤す為にお茶を飲んでいたら、ポツリと咲也に質問された。 「……兄様以外の男と寝た事ある?」 「ぶーーーーっ!!!」 突拍子ない質問内容に口に含んでいたお茶を綾人は吐き出してしまった。 「は、はぁ!?」 赤い顔で目をパチパチさせていると、咲也がその反応だけで答えを見出した。 「お前ってなんだかんだ、兄様一筋だもんな…」 「……」 意味深な言葉に綾人は首を傾げ、ごほんっと咳払いするとおずおず遠慮がちに聞いてみた。 「さ、咲也君はそんなに経験豊富なわけ?」 「いや、渉だけ。でも……好きになるのはそうでもないのかも」 「え?」 「体の相性さえ良ければ、直ぐに惚れるのかもしれない。お前は?兄様とは体から?気持ちよくて惚れたの?」 下ネタ含みの内容なだけに答えることに躊躇ったが、咲也の表情が真剣過ぎて不真面目な事からの質問ではないことを綾人は悟った。 その想いに綾人は口を開く。 「僕達も体から始まったよ。僕は不特定多数から身を守る為にゆーいち一本に絞った。ゆーいちは外に出られない性欲処理を僕で補う。お互いの利益の元、契約した恋人だったんだ」 懐かしむように話す綾人に咲也の瞳が驚きに見開かれる。 今は眼鏡をしてないから、優一と同じ瞳の色がよく見えて綾人の心を少し搔き乱した。 「咲也君が思うほど、そんなにスイートな関係じゃなかったんだよ」 ハハッと笑って肩を竦める天使に咲也の眉が下がった。 「それなら、いつ好きになったんだ?」 「さぁ?いつだろ?あの人、女遊びもしてたし不真面目のバカ王様だったから、ほんと、毎日死ねって思って暮らしてたんだよね〜。それがいつのまにか……」 人差し指で口元を押さえながら宙を見つめて思い出そうとする綾人に咲也は魅入った。 恐らく、先に惚れたのは兄だろう 目の前にいる天使はとても純粋で無知過ぎる 兄の恋心が先に発動し、天使が逃げられないよう、蜘蛛の糸を張り巡らせるが如く、自分へ堕ちるように仕向けたであろう光景が咲也の目の前に広がった。 欲しいものは必ず手に入れる兄。 要らないものは即座に切り捨てて、身軽になろうとする兄。 どちらの兄も潔くて大好きだった。 だけど、今は…… 切り捨ててこられた人達の痛みが自分にリンクして苦しさを感じる。 もし渉に切り捨てられたら…… そう思うと気持ちが塞ぎ込んで、咲也は視線を伏せた。

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