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第4話

その日の夜はなかなか寝付けなかった。 ベッドの中で何度も寝返りを打ちながら拓海の事を考える。 ーー拓海と明美が付き合ったら、もう拓海の隣には居られないのかな。 洋一はオープンキャンパスの時の二人の姿を思い出した。思い出せば思い出すほどポロポロと涙が溢れてくる。 ーーそんなの嫌だ……嫌だ、嫌だ! アイツの隣を誰にも譲りたくない。ちびで馬鹿な俺を優しく見てくれているアイツを明美に渡したくない! あぁ、そうか。俺は拓海に『恋』してるんだ。そう思った途端やっと心のモヤモヤがストンと胸に落ちた。 ーー好きだ、拓海が。嬉しい、切ない、苦しい。 初めての恋の感覚に胸が押し潰されそうになりながら、この夜は枕に顔を埋めてわんわん泣いた。 翌朝。洋一は腫れた瞼を何度も水で洗って冷やしていた。 「うしっ、とりあえず俺も男だ。覚悟を決めるしかねぇ。」 ーーおそらく今日、拓海は明美と付き合うんだろうな。振られるのわかってて行くなんて馬鹿だけど、この想いだけは伝えさせてほしい。そうしたら、悲しいけれどいつかは二人を祝福できる気がするんだ。 玄関前でふぅ、と一つ息を吐くとコートを羽織り拓海の家まで自転車のペダルを全力で回した。 「はぁ、はぁ……拓海!!」 拓海の家が見えると、ちょうどそこには家を出ようとしていた拓海がいた。 「えっ洋一、どうしたの?」 「っ……!拓海、好きだ!」 自転車を乗り捨て、汗だくのまま拓海の前まで走って行くと叫ぶように想いを伝えた。 「お前が明美を好きなのはわかってる!だけど!俺は、俺はっ……お前のことがっ」 「えっ!洋一、それ本当……?」 駆け寄ってきた拓海は持っていたハンカチで洋一の顔の汗を拭いながら洋一に尋ねた。 「嘘でこんな事しねぇだろ!」 「洋一っ……!」 汗を拭く拓海の手を掴み、見上げると嬉しそうに顔をくしゃくしゃにさせた拓海が抱きついてきた。 急に抱きついてきたことに驚いた洋一が自分より一回りも大きい拓海の体を引き離そうとしていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。 「あれ、なんだやっと引っ付いたの?」 「明美っ!これは、そのっ……!」 「明美ちゃん、ありがとう。明美ちゃんの言う通りだったよ。」 「ほら、やっぱり!ここに来たのはもう意味無いみたいね。私、帰るわ!あっ私を当て馬にしたお礼は後でたっぷりよろしくね!た・く・みくん」 そのまま「お幸せに〜」と手を振りさっていく明美を洋一は茫然と見つめていた。 「これ、どういうこと……」 洋一がそう尋ねると拓海は抱きしめていた腕を緩め俺を見つめた。 「洋一、俺ずっと洋一の事が好きだったんだ。お前が明美ちゃんと付き合ってるっていう噂を聞いたから本当かどうか知りたかっただけなんだよ。なのにお前、俺が明美ちゃんの事好きだって勘違いするから……」 「そんなっ!だってあんな顔してたら好きだって思うだろ」 「そりゃ……好きな人と話すんだからそんな顔にもなるだろ……」 だんだん顔を赤くしながら話す拓海の姿を見て洋一は初めて自分たちが両思いだと言うことに気付いた。 「俺たち両思いだったのか?でも、お前明美のこと下の名前で呼ぶしすぐ仲良くなってたし……」 「あー……それ、明美ちゃんに協力してもらってたんだよ。その、俺、お前が初めて好きになった人だからどうしたらいいかわかんなくてさ……」 照れた顔を見ていたら、だんだんとふわふわした気持ちが洋一を包み込んだ。 「拓海っ!俺、お前が大好きだ!」 ニカっと笑った洋一は爪先立ちになり拓海の体をぎゅうっと抱き寄せた。 「俺、これからもお前の隣に居ていいんだよな」 洋一はぎゅうっと抱きしめたまま拓海に尋ねた。 「……っ!もちろん!」 拓海は優しく、だけど力一杯洋一を抱きしめ返した。 親友だった二人は今度は恋人として隣を歩いて行く。 これから先もずっと、ずっと……。

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