3 / 4
第3話
「洋一!どうしたんだよ」
一言も喋らない俺に気づいた拓海が、心配そうに顔を覗き込んできた。隣に居る明美はなんだか不服そうだ。
「いやー……なんか俺、邪魔だった?」
「そうよ、だってあんた翔南大受けないじゃない」
「俺が誘ったんだよ、受けなくてもオープンキャンパスって行ってみて損はないし。明美ちゃん、ごめんね?」
「ううん、拓海くんがそう言うならいいの」
俺への対応と違いすぎて明美にむかっとした。だが俺は二人のキューピッドだ、今回は許してやる。
それから大学まで歩いたが二人は俺そっちのけで「赤本が〜」とか「予備校が〜」とか話しに夢中になっている。
気付いたら拓海の隣には明美がいて、なぜかその光景を見たくなくて俺は目を逸らした。
ーー拓海の隣にいるのは、いつも俺なのに……
二人が付き合えるように仕向けたのは自分なのに、仲良くなっていく二人を見ると胸がモヤモヤする。
気が付けばオープンキャンパスは終わっていて、「このままバイト行くから」という明美と駅で解散すると俺と拓海二人きりになっていた。夕暮れの人数が少ない駅のホームで黙って二人並んで電車を待っていた。
「……どうだったんだよ。」
先に切り出したのは洋一だった。
「なにが?」
「なにがって、明美のことだよ。知らないうちに仲良くなってたんだな。」
「あぁ……うん。いい子だよね、可愛いし。」
「そっか…」
ーー自分で言っといて何ショック受けてんだよ……
手をポケットに突っ込んだまま俯くと頭に温かい重みを感じた。ふと見上げると少し困ったように微笑む拓海がいた。
「お前さ、本当に気付いてないんだな」
「え……?」
駅のアナウンスがもうすぐ拓海が乗る電車が来ることを知らせた。
「まぁ、いいや。今さらお前を逃す気はないし。……じゃあな、洋一」
拓海は頭をポンポンとあやすように撫でるとそのまま手を振って電車に乗り込んだ。
ーーどうしよう……。これって……。
多分俺は顔が真っ赤になっているんだろう。
その日は頭に残った拓海の手の感触がなかなか消えなかった。
それから一週間。拓海はいつもと同じように接してくれてたから俺はそれに甘えて敢えて自分の気持ちに気付かないふりをして過ごしていた。
だが、それも拓海の一言でそうもいかなくなった。
放課後、俺たち以外いない教室で日直の仕事をしていた俺に拓海が呟いた。
「俺さ、明日……明美ちゃんとイルミネーション観に行くことになった。」
「……え!?」
「駅前の有名なとこ。……なぁ洋一、どう思う?」
「あ、あー……いいんじゃ、ない?」
「ねぇ本当にそう思ってる?俺と明美ちゃんが付き合っても何とも思わない?」
いつにも増して真剣な顔で聞いてくる拓海に楓は息が詰まって答えられなかった。
ともだちにシェアしよう!