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第5話
忘年会シーズン真っ盛りの六本木。
酒が程よくまわった人々が、楽しそうな声を弾ませながら歩道を行き交っている。
賑わいの中心から少し離れた雑居ビル。
入口には黒人のドアマンが2人立ち、入る者のチェックを行っていた。
シックモダンなエントランスには、ホールで響く重低音が僅かに聞こえてくる。
ホールへと続く扉とは丁度反対側にあるエレベーター。
その前にはVIPマークが掲げられ、会員カード無しには扉を開くことが出来ないようになっている。
そんな限られた者のみの為の上階は、エントランス同様モダンなテイストでまとめられた上品な空間になっており、下のフロアが一望出来るようにもなっていた。
その最奥を陣取るのは4人の若い男達。
慣れた雰囲気でソファーに腰かけ皆それぞれ寛いでいた。
「へぇ~、じゃぁまじでうちに入ったんだ。加藤未來君」
グラスを片手にもう片方の腕をソファーの背もたれに乗せ、相澤旬がそう言った。
「はい。明日からレッスンにも参加するみたいですよ」
旬の向かい側に座る黒髪ツーブロック、よく鍛えられたがっちりした体つきの好青年の男、こと森山大和がおしぼりで汚れた手を拭きながら答えた。
「まじっ?超すっげ~っ」
その大和のセリフに一際興奮しているのは大和の隣に座る金色の短めの髪を綺麗にセットさせた長身で華奢な体の男、こと橘海斗は細い切れ長な瞳をキラキラさせて身を乗り出した。
「いや、別にそんなテンション上がる話でもなくね?」
そんな海斗の気持ちが全く理解出来ないと、眉を顰めたのは旬の隣に座る神谷叶多。
「何でっ?!超上がるよっ!だってあの加藤未來がうちに入ったんだよ!?まじびびるってっ」
しかし叶多の気持ちの方が海斗には分からなすぎた様だ。
信じられないものを見るような目で叶多に反論する。
「いや、うちってお前、正式にはSクラスにだからな?Oクラスじゃないからな?」
興奮度MAXな海斗を窘める様に大和が口を挟んだ。
オリバーエンターテイメントには2つのクラスが設けられている。
大和の所属しているのがSクラス、他の3人が所属しているのがOクラスだった。
「え~、そんなのどっちでもいいじゃん。事務所は同じでしょ?」
クラスが違えばレッスン内容も異なり、そもそもレッスン場所まで違うので、会う機会は歴然と少ないのだが、それでも袂は同じなので、“うち”と一纏めにしたって良いではないかと海斗は思う。
「確かに。だけど何でうちに?ってか引退したんじゃなかったっけ?芸能界」
「だよな~。確かいじめがどうのとか、体調がどうのとか、そんな理由だった気がするけど…」
手に持つグラスを仰ぎながら、旬がうろ覚えの記憶を辿り疑問を口にすると、叶多もまた当時中々の話題となり連日ワイドショーで取り上げられていた内容を思い浮かべ言葉を繋げた。
「あ~、なんか悟さんがめちゃめちゃラブコールしたらしいっすよ。うちに是非入ってくれって」
本当かどうかは当事者達に聞いたわけでは無いので、大和とて定かでは無いのだが、Sクラスの皆が口を揃えて噂しているので根も葉もない訳ではないはずだと大和は思っていた。
「え?まじ?でもうちってスカウトなしの方針じゃなかったっけ?ありになったの?」
事務所設立当初から、やる気と意欲と積極性を重視したいと考えたオリバーは、タレントのスカウトは一切行わず、オーディション経由での入所しか認めていなかった。
だから自分も履歴書の様なものを書いて送った記憶が旬にはあった。
それが自分の知らない間に無くなっていたのかと思ったのだが。
「いや、なしですよ。でも加藤未來に関してはあり。オリバーさんも了承ずみらしいっすよ」
凄いですよね、と乾いた笑みを浮かべながら大和はそう言った。
「ふ~ん、特別待遇ってやつ?」
「すげーな、加藤未來。まぁ、確かに可愛かったけど」
どこの世界にも特別枠は存在する。
加藤未来ならそれをされてもなんら不思議ではないなと叶多と旬は思った。
「も~っ、超可愛かったよね~っ。悟さんが必死にラブコールした気持ち激わかるっ!あ~っ、俺も早く会ってみたいな~っ!!」
そしてそれが誰よりも解っている男、海斗は再び興奮を増長させ、話題の加藤未来という少年と相対するその日を待ち望んだのであった。
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