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第15話
レッスン後、海斗の家に来ていた大和は未来の話を彼にしていた。
「へぇ~、世界で活躍できるアーティストになる事、ね~。また凄いでかい夢だね」
自室のソファーに座り、クッションを抱えながら海斗はそう言う。
はつらつとした声で夢を語っていた未来は、なんの曇りもない瞳をしていたが、海斗の言うように凄いでかい夢だなと、海斗の隣に座る大和もそう思った事を思い浮かべた。
「はは、だよな。でも確かにうちのキャッチフレーズはそうなんだけどな」
「あ~、君の名前を世界に。オリバーエンターテイメントってやつ?」
「そうそう。それそれ」
事務所の看板やら広告、はたまたCMなどでも宣伝の際には必ずその文言がつけ加えられていた。
海斗も大和もそれを思い浮かべながら会話を弾ませた。
「でもさ、こう言っちゃなんだけど、実際それが出来てるグループなんていなくない?Mireiさんだって欧米進出っとかって騒がれたけど結局しくってたしさ」
海斗は事務所の先輩で看板の一人、Mireiという女性アーティストの事を名指ししそう言った。
男性グループメインのオリバーエンターテインメントで、今のところ紅一点の女性アーティストであるMireiは、その意外性からデビュー当初から注目され、彼女の高い歌唱力と優れたパフォーマンス力から人気は急上昇。
日本で屈指の歌姫という名を確率し、満を持して欧米進出を試みたのだが、世界の壁は予想以上に高かった。
「…まぁ、でも一応アジアではどのグループも名を広めてはいるし」
Mireiの話はさておき、大和は先輩達の勇姿を称えそう現状を語るが。
「いや、そんなんうちに限らずじゃん?ポリプロやタベプロ、色んな事務所のそこそこのアーティストならアジアで名前が知られてるよ。確かにその中ではSクラスのグループが一番知名度高いと思うけど、でもそれはアジアで精力的に活動してるし、韓国では韓国語でCDもだしてるしさ」
当然の結果、大和も海斗同様それはそう思う。
「だよな。それにもしOクラスがうちと同じように活動したら、うちは負けると思うし」
野球に例えるならOクラスはセ・リーグ、Sクラスはパ・リーグ。
それは日本だけならず、アジア圏でも浸透していた。
活動内容を同じにすれば、いくら実力を評価されていたとしても、人気の高い彼らに勝つのは難しくなる。
「…まぁ、でもそれができるのがSクラスだけどね。普通は利益を考えるからあっちこっち飛び回らなくたって、日本で頑張ってた方が断然儲かるしさ」
日本という人口もそれなりに多く、そして生活水準の高い国なら、自国で売れるだけで十分ともいえる。
しかし世界での活動に重きを置いているSクラスは利益は二の次、まずは国外の知名度を高める事だけに専念していた。
それはSクラスの特権でもあるがその反面、
「だからうちはいつまでたってもOクラスに頭があがんないんだよ。Oクラスからの融資がなきゃ飛び回ることも出来ないから」
二の次の利益のお陰で十分な活動資金を自己調達できないでいる為、その資金は潤沢な所から引っ張るしかない。
いつまでもそちらから飯を食わせて貰ってる現状、中々大手を振るのは難しくなる。
「…でも当たればでかいけどね。まぁ、悟さんもオリバーさんもそれを狙ってるんだろうけど…」
夢だのなんだのと綺麗事の裏にあるのは結局は利益。
一攫千金。
それを成し得る為動きだしたプロジェクトでもあるのだが。
「実際中々難しいよな~。まぁ、未來は子供だらからそういう現実は知らないし、まだ知らなくてもいいと思うけどさ」
それこそ夢はでかい方がいい。
パイロットになりたい、医者、弁護士になりたいという子供に、それにはまずと事細かにその厳しい過程を伝える大人は少ないだろう。
そんな事は本当にそれを目指すと決められる年齢になってから知るので十分だと大和は思う。
「まぁ、そうだね。それにもしかしたら未來なら叶えられるかもしれないしね」
少し茶化した様に海斗は言うが、しかしそれほどまでに未来の夢は大きかった。
「はははっ。そうだな」
笑いながら相槌を打つ大和。
勿論可能性は0ではないし、既に日本で天才子役として注目を集められていた未来なら、もしかしたらもしかするのかもしれないが、しかしながらそれでも99%無理だと2人は思う。
そして、精々なれてアジアスター止まり、それが現実だろうと思ってしまうのであった。
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