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第16話

大和と海斗が現実の厳しさを語っていた事など知る由もない未来だが、しかし彼らが思う程未来は子供ではなかった。 レッスン室で1人柔軟をしながら開始を待っていた未来は、昨日大和達に語った夢の難しさを自問していた。 世界の中心と言っても過言ではないアメリカでの生活の中で、そこで通用するアーティストになりたいと夢を抱いた。 だがその夢を叶えるのは茨の道で、日本人がそれも日本からじゃ厳しいのが現実だという事を未来は悟っていた。 勿論、アメリカにいたからといって叶うわけではないし、SNSが流通している今、問題は場所ではないのだが、それでもやはりその距離はアメリカからの方が近い気がした。 しかしそんな現状手の届きそうもない事を思案するより、それ以前に自分はまずこの中で何もかも一番にならないと話にもならない。 なれなければ世界など本当に夢のまた夢の夢。 が、それもすぐには難しそうだな、と各々で自主練に励んでいる先輩達を見ながら、未来はそう人知れずため息を吐いた。 そんな時、未来に声を掛けたのは悟で。 「あ、未來。ちょっといいか?」 「え、あ、はい。何ですか?」 手招きされる方、レッスン室の外の踊り場に着くやいなや、悟は話し出した。 「え?ドラマ?」 唐突に、それも予想外すぎる悟の申し出に、未来は思わずおおむ返しにそう返した。 「あぁ。うちに入ったばっかでなんなんだが、中々いい脚本と役柄だったからどうかなと思って」 穏やかな笑顔と共に提案してくる悟だが、如何せんいきなりすぎたのか、未来の表情はあまり芳しくはない。 「はぁ…」 「原作はこれなんだけど、一度読んで考えてみておいてくれないか?」 そんな未来に悟は苦笑いを浮かべながら、1冊の本を差し出した。 「あ、はい。解りました」 本を受け取りその表紙を見つめながら、未来はドラマ、か…と、心中でその台詞を再び繰り返した。 ※※※ 「へ~、すげぇな。笹村健吾っていったらさ、俺でも知ってる超有名脚本家じゃん?そんな人のドラマのオファー受けるなんて流石天才子役様。で?どうすんの?勿論やるんだよな?」 休み時間。 お決まりの窓際の後部席に未来と共に座る琉空は、未来の話に少し興奮気味に声を弾ませた。 「ん~、まぁそうしようかなって思ってるよ」 悟から原作本を渡されたその夜に、一気に読み上げてしまえる程面白い内容で、そして宛てがわれた役もとても良く、やったらきっと楽しいだろうと素直に思えた。 「なんか、出てやってもいいよって感じに聞こえるのは俺の気のせい?」 有名脚本家からの依頼にも拘わらず、嬉しそうな素振りを一切見せない未来と、妙に突っかかる物言いから琉空はそう感じてしまった。 「いや?だってまさにそうだもん。僕は出たいなんて一言も言ってないから。向こうが数字取る為に僕を使いたいと思ってる。僕が出れば絶対話題になる。だって僕の復帰作なんだからさ」 しれっと何食わぬ顔で、上から目線にそうのたまう未来に、琉空思わず言葉を詰まらせた。 「っ、それはそうかもしんないけどっ。でもなんなの?お前のその自信はっ。ってかそうはならないかもしれないじゃんっ。お前の事なんて皆忘れてるかもしれないしさ」 いくら天才子役だったといえ、そんなもの所詮過去の栄光だろう、なんて図々しい奴なんだと思う琉空は、強気な未来の発言に強い苛立ちを感じる。 が、しかし 「ふっ、それはないよ。だってだったらこんな話はそもそも来てないから」 そうでしょ? と、わざとらしく鼻で笑ってそう言う未来に、不覚にも琉空は確かにと思ってしまった。 「っ…、っでもっ、普通はちょっとは謙遜するもんだろ?なのにお前はっ」 なんでそんな尊大なんだと続く筈だった琉空の台詞は、それを遮った未来によって掻き消された。 「謙遜?何で?僕は自分の事を過大評価はしてないつもりだよ?それに僕、普通じゃなくて天才だから」 あーいえばこーゆー。 おまけに揚げ足までとってどや顔で言い返してくる未来に、琉空はこれ以上話を続かせる気力が瞬時に失せた。 「あぁそうですかっ。勝手に言ってろっ!」 ふふん、と勝ち誇った顔でこちらを見てくる未来を極力視界に入れない様にし、琉空は内心でくそ腹立つっ、と悪態をついた。 それと同時に、どんなに見た目や才能に優れていたって、未来の様な自意識過剰な奴にはなりたくないと激しく思う。 しかしながら、芸能人とは皆こういうものなのかという疑問も浮かんでくる。 当たり前に容姿がいい者ばかりだし、ナルシストな者の方が多そうに思える、イコールだったら最悪。 の図式が琉空の中で成された。 そして思った。 そんな中で生きてくなど自分なら絶対無理、と。 そしてそして、思った所で気がついた。 そもそも芸能人になど自分がなれるわけがないからどうでも良いんだったという事を。

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