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第17話
青少年達が体を動かした後の、熱気立ち込めるレッスン後の更衣室。
「はぁ~、疲れたぁ~。あ、蒼真、悪いけどそこのポカリ取って?」
疲労感漂う面持ちで、部屋の中央にある長椅子に座る綾人は、開かれた状態になっている自身のロッカーにあるポカリスエットを指さした。
「あぁ、これ?」
「そう。サンキュ」
丁度斜め前にあったそれを手に取ると、蒼真は綾人にほいと差し出した。
「未來、汗ちゃんと拭かないと風邪ひくよ?ほら」
「あ、はい。ありがとうございます」
その直ぐ横で、大和が未来の使っていたタオルを取り、そして額に浮かぶ汗を拭ってやっている。
「あ、ってかそういえばさ、明日の合同レッスンの場所って解ってる?」
「あっ、ん~…、何となく、なら…」
大和に言われるまですっかり忘れていた未来だったが、そう言えば初めてここに来た時に渡された予定表に、確かにその事が書いてあったのを思い出した。
「そっか。明日初合同だっけ。大丈夫そう?」
「えーと、多分。渋谷で降りればいいんですよね?」
自分を気遣う綾人に、うろ覚えな記憶を手繰り寄せながら未来はそう返した。
「そうそう。でもそっからちょっと解りずらいと思うから、あ、よかったら渋谷で待ち合わせて一緒に行く?」
「え?でも、良いんですか?」
予定表には合同レッスン場所までの簡単な地図が書いてあったが、しかし道順までは把握していなかった。
なので蒼真の提案は未来としてはとてもありがたい。
が、煩わせてしまう手前、一応お伺いを立ててみた。
「全然良いよ。俺も渋谷で降りるから。じゃぁ12時くらいに改札来てよ」
「はい、解りました。ありがとうございます」
にかりと笑ってそう言ってくれる蒼真に、未来は内心ほっと一息つく。
というのも、大事な予定表を無くしてしまった気がするので、蒼真が居なければ自力では行ける気がしなかったからだ。
「じゃぁ蒼真、宜しくね」
「おぅ、任せて」
「よし、じゃぁ帰るか」
「はい、帰りましょう」
話の終わりと共に丁度支度の終わった4人は、更衣室のドアを開け、各々の家路についた。
※※※
蒼真のお陰で無事辿りつけた合同レッスン場所。
未来は着くやいなや早々に、大和に会わせたい人達がいると連れてかれ、彼の仲のいい人達だと言う面々に囲まれていた。
「やっばいっ!本当超可愛いっ。想像以上っ」
開口一番にそう言った海斗は、ようやく会えた未来に想像以上に興奮していた。
「本当可愛いねぇ~」
「いや、そんな事ないです」
海斗に続き褒め言葉を口にした拓海に、柔らかい笑顔を向けられた未来は、本心では当たり前だと思いながらも謙遜の言葉を述べた。
「またまたぁ、言われなれてる癖に。つか聞き飽きてるか」
「え?そんな事は」
いきなりまさかの図星を叶多につかれ、その冷ややかな瞳からも少し焦りを感じたが、未来は咄嗟に否定の言葉を言おうとしたのだが。
「あるでしょ。だってこんな可愛いもん。俺だったら絶対飽きる。解ってるっつのって」
またまたそんな不躾な台詞を嫌な笑みを浮かべながら旬に被せられ、予想だにしない展開に未来は戸惑いどう返すのが無難かと思案していると、横から有難い助け舟が出された。
「そんな事思わないよね~。未來はいい子だから。このお兄ちゃん達ね、性格歪んでるから話聞かなくていいよ。ね?」
「え、あ、はい…」
海斗のその言葉と人好きのする笑顔に、未来は助かったと内心で安堵の息をついた。
「もうレッスンは慣れたか~?虐められたりしてない?」
「え、あ、はい。全然大丈夫です」
やんちゃで近寄り難そうな光太郎に少したじろぐ未来だったが、意外にも優しい笑顔と声に安心してそう答えた。
「本当?何かされたら大和に言わなきゃ駄目だよ?」
少し身を屈め未来の視線に合わせて拓海は言った。
「え~、大和に~?それちょっと頼りなくね~?」
「何でですかっ。大丈夫ですよ。ちゃんと目光らせてますから」
「ふ~ん、ならいいけど」
大和を頼りないと指摘した旬に、当たり前ながら大和が異を唱える。
その大和の台詞に、本当かよと思いながらも光太郎は一応彼の言葉を聞き入れた。
「帰りはどうしてるの?お迎え?」
「あ、はい。お母さんが迎えに来てくれてます」
学校終わりの平日のレッスンとなれば終わるのは20時を過ぎる。
海斗は夜道を心配してそんな質問をした。
「なら良かった。まだ小学生だし、それにこんな可愛い子、夜遅くに一人で帰らせられないよね」
「そうだね。絶対一人で帰っちゃ駄目だよ?お母さんこれない時とかあったら、絶対大和に言うんだよ?」
海斗の言葉に賛同し、拓海もそう言って未来に促した。
「変な奴多いからな。お前も嫌な思いしたくないだろ?」
「はぁ~…」
子供な自分が遅い時間に1人で帰路につくのが良くないのは未来にも解る。
しかし叶多が言う嫌な思いというのが未来には今一ぴんと来なかった。
小学生とはいえ自分は6年生、つまり12歳だ。
流石に見ず知らずの人に着いていったりしないし、それなりに抵抗も出来る。
勿論突然襲われたりしたら元もこもないが、それは子供に限らず大人だってそうだろう。
そんな思いから未来は曖昧な返事しか返せないでいた。
「でもさ、今後がまじで楽しみだな。絶対美人になるだろうし」
未来の頭の中にはまだ薄い霧がかかっていたのだが、話題は光太郎によってころりと変えられた。
「そんなの当たり前だよっ。今がこんなけ可愛いんだから」
「そうだね。まだ子供だから顔は変わると思うけど」
海斗と拓海もこぞってそう未来の容姿を称えてくる。
「まぁでも、ドブスになる事はないだろ。この調子でいけば」
「そうっすね。激しく同意っ」
子供の時に可愛いと大人になるとブスになるとは良く言うが、しかし容姿の良い、例えば芸能人の幼少期の写真は大概可愛い。
それに子供とはいえ、未来の年齢になればある程度の作りは変わらないだろうと思い言う叶多に、大和も首を縦に何度も下ろした。
「まぁ~そうだよな。あ、なら先約しとこ。未來、指切りしよっか?」
「え?指切り?」
自分の小指を立たせた旬が未来にそう投げかけると、目の前に差し出してきた彼の小指に、条件反射で未来もその指を絡めた。
「うん。ゆ~びきりげんまん、ん~、そうだな、後五年したら旬君の恋人になる。嘘ついたらはりせんぼんってったっ!いってぇ~なっ、何すんだよっ」
リズムに合わせて楽しそうに腕を振っていた旬だったが、彼の台詞にいち早く反応した海斗がその腕をぺちりと叩き妨害した。
「何すんだよじゃないしっ。何勝手にそんな約束させようとしてんのっ!?」
「勝手にって、別にいいじゃん。そんなの早いもん勝ちだろ?な~、未來」
な~、と旬に呼びかけられても未来としてはさっぱりで。
何?何の話をしているんだと最早彼らに付いていけない。
「いいわけねぇだろっ。馬鹿かお前はっ。お前なんて好きにならねぇよ。なぁ、未來?」
「え、あ、え~っと…」
今度は叶多に呼びかけられるが、何が何だか、全く話についてけない未来は、なんと返したらいいのか悩んでしまう。
そんな未来の肩を抱き、ニヤリと笑いながら旬はこう言った。
「そんな事ないよな~?ってか俺がいいと思うよ?あ、付き合ってくれなくても、初Hは俺としよ?俺結構上手いと思うってぇっ!!なんだよさっきからっ!何で叩かれなきゃ」
「何で叩かれなきゃって当たり前でしょうがっ!何考えてんですかあんたっ!」
次は大和に、再び腕を先程より強く叩かれ不満を口走る旬だったが、皆まで言わせてもらえる筈などなかった。
「未來、こっちおいで?そのお兄さんド変態だから近くにいちゃ駄目」
「え、あ、はぁ~…」
2人が言い合うその隙に、ささっと未来の手を引き拓海は自分の元へ引き寄せた。
「てめぇは何でそう節操がねぇんだよっ!小学生相手にまじでありえねぇっ!」
好んだ相手はすぐ口説く旬の癖が、まさかこんないたいけな子供にまで及ぶとは。
怒りよりも呆れを叶多は強く感じた。
「はぁ?馬鹿じゃねぇ?流石に俺も、今どうこうなんて考えてねぇよ。五年後って言ってる」
「五年後も十年後だって駄目っ!未來に変な事教えないでっ!」
否定すべきとこはそこではないと、海斗は旬を軽蔑と憤怒の眼差しで激しく睨みつけそう言い切った。
やんややんやと、暫く収まりそうにない彼らのやり取りに、やはり全く付いていけない未来はただただ唖然とするばかり。
しかし、なんとも賑やかな人達ではあるが、自分に敵意を向けてくる人は居らず、上級クラスの彼らから目をつけられずに済んだのなら、陰湿な虐めとかも合わなくて済みそうかなと未来は思った。
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