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第19話

「未來君っ!芸能界復帰するんだって?」 「オリバーに入ったって本当?」 「ドラマにも出るんだよね?」 「え、ちょっ、えっ……!?」 教室に着くやいなや、矢継ぎ早にクラスメイトの女の子達にそう捲し立てられた。 未来は何が何だか解らず狼狽えてしまうが、彼女達の台詞から自分の芸能界復帰がバレている事を知る。 未来はその事は琉空にしか話していない。 にもかかわらず彼女達が知っているという事は…。 遠巻きに未来達の様子を伺い、丁度ロッカーに荷物を押し込んでいた琉空。 未来は諸悪の根源であろう彼を睨みつけ、そしてちょっと来てと、教室の外に引きづり出した。 階段の踊り場まで琉空を引っ張ってきた未来は、何だ何だと戸惑う彼にこう言った。 「何で皆に言ったの?僕まだ秘密にしてって言ったよね?」 眉根を寄せて睨んでくる未来に、琉空はぶんぶんと何度も首を振った。 「ちょっ、待て待てっ。俺を疑うなって。俺は言ってないよっ。これだよこれっ」 琉空はスマホの画面を未来に見せながら自分の無実を証明した。 「ん?何これ。ネットニュース?」 そこには“加藤未来、待望の芸能界復帰!!”と書かれた見出しがあった。 「まさかお前知らなかったの?週刊誌にも載ってるみたいなのに」 「いや、全然知らなかった」 そんな事は全く聞かされていなかったので、驚き瞳を丸くする未来だったが、それを知って思い返すと、そういえば今日は朝から変だった。 駅や電車、道すがらでの視線が何時もの数倍多かった。 成程、そういう事かと未来が心中で納得していると。 「ってか事前報告とかされないの?」 「あ~、特には。そういうのは任せてるし」 てっきり記事になるような事は、それが世に出される前に本人の確認がいると思っていた琉空だが、それはケースバイケースなのだと言う事を知る。 「ふ~ん、まぁ、悪い事は書かれてなかったけど…」 「そっか、ならまぁいいや」 未来はその記事を読む事はせず、話も気も済んだ様で、疑ってごめんと琉空に謝まった。 そして何か言いたげな琉空を他所に、さっさと教室へと足を向かわせた。 しかし、自分が思ってたより早く公表されたなとこの件を思う。 別段隠してほしかった訳じゃないが、もう少し平穏な日常を味わってたかったかも。 と、そんな事今更思っても遅いのだが、何はともあれ、明日からマスクは必須だなと思った。 ※※※ 未来の芸能界復帰記事から三日後。 レッスンスタジオの更衣室。 未来がそのドアを開けると、着替え終わってベンチで寛いでいた大和・蒼真・綾人の3人から声を掛けられた。 「おはよう、未來。お前大丈夫だったか?学校とか、大変だっただろ?」 心配そうな面持ちでそう言う蒼真に、未来は苦笑いを浮かべた。 「おはようございます。まぁ、そうですね。少し…」 「話題になって注目されるのは俺達にとっては喜ぶべき事だけど、でもその分副作用半端ないからな。俺もつれにサイン頼まれたし」 勿論断ったけど、と大和は肩を竦めそう言った。 この三日、自分ですらやんやと色々話を聞かれた位なので、当の本人はその数倍大変だっただろうと、彼の心は未来を労う気持ちでいっぱいだった。 「あ、すみません。なんか迷惑かけちゃって」 「ははっ、気にすんなって。俺らそういうのにはもう慣れっこだから」 自分達の事を気にかける未来に、そんな気遣いは無用だと綾人は笑う。 オリバーに所属しているだけで、面識のないトップアイドルの先輩達のサインや、彼らのプライベートを今までどれ程聞かれた事か。 「そうそう。あ、でもそれを言ったら未來だって慣れっこか。騒がれるのなんて。昔はもっと凄かったんじゃない?」 子役と言えば加藤未来、と誰もが連想させられる程、当時人気を博していた未来なので、騒がれるのなんて日常茶飯事だっただろうと蒼真は思う。 「あぁ、まぁ。でもあの時はマネージャーさんとかもいましたし、あんまり一人でいる事なかったですから」 蒼真の台詞であの頃を思い浮かべながら未来は話す。 仕事の移動は勿論の事、学校へ行く時も車が常だったし、まだ幼かった事からも誰かかんかは傍に居てくれていた。 「そっか、そうだよな。じゃぁ今の方が危険じゃん。お前絶対言えよ?お母さん迎えに来れない時とかさ」 「うん。一人で帰って何かあったら大変だし、俺らが送ってくから遠慮せずに言ってね?」 囲まれたらとても大変な事を、大和も綾人も芸能人の知り合いが多い事からよくよく知っていた。 まだまだ幼い未来なのでその危険は一層増すに違いなく、2人は未来にそう念を押した。 「はい、ありがとうございます」 無邪気な綺麗な笑顔を浮かべ礼を述べた未来。 しかしその腹の中は強かで。 これでレッスン帰りは母の居ない時でも安心できるなと喜んでいた。 そしてやはり可愛いというのは得だなぁ~、と改めて実感していたのだが、問題はレッスン帰りだけではない。 学校帰りも同様に大変なのだが、琉空が送ってくれるわけは絶対ない。 しかし一人でいると大概話しかけられるので、出来れば一人で電車や街を歩きたくないと思う。 もっと言うと本当は専属マネージャーを用意して貰えたら一番楽なのだが、如何せんまだそれを頼める程自分はオリバーに貢献していない。 未来は着替えの手を進めながら心中で深いため息を吐いた。 どこかに誰か、いいカモが居ないかなと。

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