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第20話
未来がオリバーエンターテインメントに入所してから2度目の合同レッスン。
午前中のレッスンを終えて昼ごはんを食べた後、午後のレッスンが始まるまでの間、未来は先輩達と共に談笑しながら待っていた。
「ってかまじでダンス上手いよねぇ。つか飲み込みはぇ~」
前回と、そして朝のレッスンを思い浮かべながら、はっきりした顔立ちの細身の茶髪の少年、こと矢田七瀬がそう未来のダンスを絶賛した。
「でしょ~。ダンス大好きだもんね~」
その台詞に1番に反応したのは未来ではなく蒼真で、まるで自分が褒められているかの様に嬉しそうな笑顔で未来に相槌を求めた。
「はい、大好きです」
「「か~わい~っ!」」
満面の笑みで答えた未来のその天使の様な可憐さに、七瀬ともう一人の少年の声が重なった。
「い~なぁ~っ。うちにも欲しいなぁ。こういう可愛い後輩っ」
「本当っ。こんな後輩がいたら超可愛がるのにっ」
小柄で子犬の様な可愛らしい顔立ちの赤茶色の長めの髪の少年、こと井上健太は胸をきゅんきゅんさせ、そして七瀬もそんな彼に同調した。
「あははは。ありがとうございます」
自分の予想通りで理想通りな反応に大満足な未来。
初めて会った時からちやほやと自分に構ってくれる二人だったが、しかしだからといってこの人達が自分のコマ、送り迎えなんてやってくれるわけは無いだろう。
あれからいい人材は居ないかと探していた未来。
蒼真達に頼めば、きっと学校やこの合同レッスンの送りだって嫌な顔せずしてくれるだろうが、しかしそこまでさせるのは流石の未来も気が引けた。
中々探すと都合のいい人はいないもので、未来が心中でこっそりため息を付き、そしてオリバーで実績を作りマネージャーを付けて貰える様になるまでは自力で逃げ切るしかないか、と諦めていると。
「あ、未來、お前また取れてるじゃん」
未来の足元を見ながら言う綾人の視線に、未来も釣られて足元を見る。
「あ、靴紐。何でそんなすぐとれんだろな?結構きつく結んでんのに。ちょっと待ってな」
「あ、すいません…」
蒼真もそんな2人の視線を追うようにそこを見れば、蝶々結びが外れ、固結びだけになった紐がだらりと床に垂らされていた。
蒼真は徐に片膝を付き、そして未来の靴紐に手を伸ばした。
「え、何?もしかして毎回お前が結んでやってんの?」
その様子に驚きの声をあげたのは七瀬だったが、健太も同様に目を丸くしている。
「俺も大和君も結んでるよ~。この子蝶々結び出来ないから」
二人の驚く様などなんの気も留めず、綾人はさも当然とそう言うが。
「そうなの?何で?簡単じゃんあんなの」
「簡単じゃないですよ。全然難しいです」
靴紐など、低学年の子でも結べる子は多い筈と思い七瀬は言うが、未来にはそれが未だに出来なかった。
「不器用なのようちの子は。はい、OK」
「ありがとうございます」
ぽんと結び直した足を軽く叩き、蒼真は未来に出来たよと伝えると、未来は彼に笑顔を向けた。
「どういたしまして。あ、あっちで柔軟しとく?」
「はい、そうですね」
「俺トイレ行ってから行くわ」
「あぁ、うん。解った~。先いってるなぁ」
そう言って移動していくSクラス組の背中を見つめるのはOクラス組の二人で。
「…いやさ、不器用ってレベルの話?」
「だよね?可愛がる気持ちは激解るけど、でもちょっと甘やかしすぎだよな、あいつら」
きゃっきゃっとそれはそれは楽しそうに柔軟をする未来と蒼真を視界に入れながら、七瀬と健太は話す。
「うん。なんか、大丈夫か?」
怪訝な表情で七瀬が健太に目配せすると、彼は何とも言えない顔で肩を竦めた。
「さぁ…?」
何となく、何となくだが、この状態で行くのはあまり良くない様な気がするが、自分達が口出す事ではないのかなと、二人はとりあえず見守る事を選択した。
※※※
午後のレッスン合間の休憩時間。
海斗は下級グループのレッスン室の前で探し人の名前を呼んだ。
「み~らいっ。ちょっとおいで~っ」
「え?あ、はい。何ですか?」
ドアの前で手招きする海斗に未来は駆け寄った。
すると丁度海斗の斜め後ろ、未来からは死角となっていた所に斗真が立っていて。
「わぁ、本当だ。噂通り可愛いっ」
未来の顔を見ると彼はそう褒め言葉を述べた。
「でしょ~っ。見に来たかいあったでしょ?あ、未來、この人知ってる?Oクラスの先輩なんだけど」
「はい、勿論知ってますよ。山瀬斗真君ですよねっ。初めまして、加藤未來ですっ」
わざとオーバーリアクションをした未来だったが、それでも今一番旬なアイドルである斗真を前に、素でこの状況に気持ちも高まる。
同じ事務所なのでいつかどこかで会うかもしれなかったが、それがまさか今日だとは思ってもいなくて未来は驚くが、驚いているだけでは勿体ない。
「こちらこそ初めまして~。山瀬斗真です。宜しくな」
「そんなっ、こちらこそっ。ってか凄いっ。会えて凄く嬉しいです。TVで見るより、断然実物の方が格好いいですね」
売れっ子の先輩の一人。
愛想を振り撒いておいて損は無いと、未来は弾む様な声と表情で斗真に褒め言葉をおくった。
「本当?ありがとう。でも未來も昔と変わらず可愛いね。俺ドラマ見てたよ~」
「本当ですか?ありがとうございます」
お互い賛辞をおくりあい、とても和やかな雰囲気に包まれている。
「クラスは違うけど、でも同じ事務所だし、何か困った事あったら何でも言ってな?海斗か大和に伝えてくれたらいいし」
「はい、ありがとうございます」
未来の頭に優しくぽんと手を起き斗真がそう言うと、未来も柔らかな笑顔で礼を述べた。
海斗はそんな二人のやり取りを至極満足そうに見守りながら、未来と斗真が仲良くなってくれそうな事を、無邪気に嬉しく思っていた。
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