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第21話

未来と別れた海斗と斗真は、海斗のレッスン室の方へと階段を登っていた。 斗真はその道すがら、先程の未来の事を思い浮かべ話した。 「成る程ね~。可愛いくて愛想もよくてお世辞も嫌みなく言える、か。お前らが可愛がる気持ちが解ったよ」 「でしょ~、ってでもなんかとげを感じる言い方だね。何で?」 海斗は斗真の言葉に違和感を覚え、少し眉根を潜めた。 「ん~?だってなんか俺は苦手だから。あぁいう要領いいタイプって。まぁでも、そんな関わる事ないからどうでもいいけどね~」 しれっとした態度で、苦手だとはっきり言った斗真に、海斗は口をぽかりと明けて意表をつかれた。 「え?何それ。じゃぁさっきのあれは?何かあったら俺に言って来い~、的なやつは?」 先程未来と接していた時はあんなにも友好的だったのに、あの言葉はなんだったのだと海斗はそう詰め寄った。 「はぁ?あんなの社交辞令に決まってんだろ?」 「なっ、ひどっ。社交辞令てっ。ってか未來はきっと信じてるのにっ」 あんな幼い子にそんなものを使った斗真に、不愉快に感じた海斗は彼に非難の眼差しを向けた。 が、斗真はそんな海斗に呆れたため息を吐くと。 「ばぁ~か、未來は解ってるよ。ってかお前なんかより断然未來の方がそういう面ではうわ手なんだから、あんまいいように使われんなよ?」 お前は昔から騙されやすいから、と斗真は海斗の額をコツンと小突いた。 「なっ、未來はそんな強かな子じゃないよっ」 自分を小馬鹿にしてくる斗真に、海斗は少し顔を赤くして未来を庇うが。 「はいはい。でも多少強かなくらいで調度いいんだよ。じゃなきゃこの業界やってけないから。お前も少しは未來を見習ったら?」 「っ、だからっ、未來はそんな子じゃないってばっ!」 海斗は斗真が何故そんな風に未来を悪く捉えたのか、全く解らなかった。 だってあんなに可愛くていい子なのに、斗真の事も褒めたたえて慕って来てくれていたのに、何故そうなるのだと軽く混乱してしまう。 「はいはい。解った解った」 不満あらわに自分を睨んでくる海斗に煩わしさを感じた斗真は、彼を軽くあしらいながら心中で軽いため息をついた。 海斗が斗真を理解出来ない様に、斗真もまた海斗が理解出来なかった。 そんな子じゃない、と言って自分の意見を全面否定してくる海斗だったが、斗真としてはまだ一回しか会ってない癖に、何故そう断言できるのか謎で仕方なかった。 未来は幼い頃から芸能界にいる。 だから普通の大人以上に体裁がいい可能性の方が高いと斗真は思う。 それにこの業界はただの子供が生き残れる程綺麗な世界じゃない。 そんな事くらい海斗だってもう解ってる筈なのに。 はぁ~、本当単純な奴。 と、斗真は深いため息をついた。 ※※※ 合同レッスンの翌日。 未来は一限目の休み時間に、早速昨日の話を琉空にしていた。 「そう言えばね、昨日斗真君に会ったよ」 「へ~、斗真君に?そりゃ女子が聞いたら羨みそうなネタだな」 フルネームではなく名前だけで琉空に伝わる程、日本中の、少なくとも若者の間に斗真は認知されていた。 「はは、確かに。格好いいもんね~、斗真君。実物も格好良かったし」 彼氏にしたいアイドルに確実に上位で入ってくるだろう斗真に、一目でいいから会いたいと思う女子は沢山いるだう。 それに男の自分の目から見ても、その魅力は十分感じれると未来は納得した。 「ふ~ん、そうなんだ。喋ったの?」 「ちょっとだけね」 「どんな人なの?斗真君って」 琉空もTVや雑誌で見る機会の多い有名な斗真に興味を抱き、そう未来に質問を続けた。 「どんなって、挨拶程度しか喋ってないから解んないけど、でもそうだな、業界人って感じの人かな」 未来は昨日の斗真の様子を思い浮かべながら、自分の感じたままを琉空に話すが。 「は?何それ。つまりどんな人だよ?」 業界人ではない琉空にはそれでは伝わらず、彼は眉根を下げて未来の言葉を待った。 「ん~、外面は良いけど壁がある人って事。まぁ親しくなりたい訳じゃないから別に壁があったって良いんだけど」 「え?何で?親しくしといた方が良いんじゃない?だって先輩だし有名人なんだからさ」 業界人の話は理解出来た琉空だが、後半が理解出来ない。 だって長いものには巻かれるタイプの未来がそれをしないなんて。 どういう風の吹き回しだと琉空は思う。 「あ~、そうだけど、でも別に斗真君以上の人なんて沢山いるから。僕、基本媚売らない主義だし、それにどうせ売るならもっと上の人に売るよ。斗真君よいしょしたって見返りなんてたかがしれてると思うしさ」 何食わぬ顔でど失礼な事を言う未来に、琉空は口端を引き攣らせて一瞬言葉を詰まらせた。 「っ、へ~、あ~そ~っ。そりゃ失礼しましたっ。だけどお前本当性格悪いな」 どうせ斗真の前では笑顔を振りまいてぶりぶりしてたであろう未来なのに、腹の中ではそんな事を思っているなんて、友達ながら嫌気を琉空は感じた。 「そう?でも別に良いんだよ。性格なんて悪くたって、要領と愛想が良ければこの業界に支障はないから」 しかし琉空の嫌事に思い改める未来ではない。 「あ~そ~ですかっ。なんか嫌な世界~」 「はは、そうだね」 琉空の言い分は未来とて解る。 寧ろ幼い頃からこの世界に身を置いているからこそ、わかりすぎてしまったのだ。 嫌な世界だと思われても仕方ない。 だってこの仕事は夢を売る仕事。 自分達の真実《リアル》なんて誰も求めない。 自分の真実の性格が悪かろうと、それを取り繕えて周りに知られなければそれでいい。 目に見える部分が綺麗であればいい。 そういう世界だから、と未来は思う。

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