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第23話

レッスン前の更衣室。 蒼真と綾人は未来に先日の帰り道の話を聞いていた。 「え~、いいなぁ~、大和君。俺も会いたいっ。未來のお母さんにっ。未來っ、今度俺も遊びに行っちゃ駄目?」 大和から凄く美人だったとありさの情報を得ていた蒼真は、自分も是非見てみたいと未来にお伺いをたてた。 「全然いいですよ。是非遊びに来てください。あ、綾人君も良かったら来てくださいね?」 蒼真のお願いを快諾した未来は、一緒にいる綾人も同様に誘った。 「俺もいいの?」 「そんなん勿論ですよ。うちの母さん皆に会いたがってましたから。来てくれた方が喜ぶと思うんで、都合いい日あったら教えてくださいね?」 母さんに言っときます、と言って笑顔を2人に向けた未来。 「わぁ~ぃっ。やったぁ~っ。じゃぁいつにする~?」 満面の笑みでテンション高く喜ぶ蒼真は、早速その日にちを決めにかかる事から、彼の本気度が伺えた。 「俺はいつでもいいけど…」 「僕もいつでも」 「まじ?じゃぁ大和君に聞いてくるっ。大和く~んっ!」 蒼真は大和の名前を呼びながら、颯爽と更衣室を去っていった。 ※※※ レッスンの次の日。 日曜日で学校もレッスンもない未来は、琉空を自宅に招き、丁度ありさと三人でおやつタイムを過ごしていた。 「あ~、楽しみだわぁ~。Sクラスの子達に会えるの。きっと皆イケメンだろうし」 紅茶のカップを持ちながら、ありさはうきうきと弾む声で大和達に会える事を喜んだ。 「あはは、そりゃそうでしょうね。アイドルとして芸能界目指してる人達ですから」 俳優やミュージシャンなら見た目よりもその才能が重視される事もあるので、皆が皆容姿端麗とはいかないくとも、ジャンルや度合いはさて置きとして、アイドルを目指す青少年に不細工がいる確率は低いだろうと琉空は思う。 「そうよねぇ。あ、でも琉空君は興味ないの?芸能界に」 ありさはお代りの紅茶を琉空と未来、そして自分のカップへと注ぎながら琉空にそう言った。 「え?俺ですか?あ~…、はい。俺はあんまり」 琉空はお代りのお礼をどうもと軽く頭をさげながら、ありさの問に答えた。 「そう。残念ねぇ」 「残念?何でです?」 「うん、何が残念なの?」 眉根を下げながらそう言うありさを、琉空と未来は不思議そうに見つめた。 「だって琉空君格好いいから、勿体ないなって思って。きっと人気者になれるのに」 にこりと笑って言うありさの、意外すぎた台詞に琉空は思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。 「えぇっ?いやっ、そんな俺は無理ですよっ。そんな格好良くないしっ」 格好良いなんて思った事も一度もないし、またそんな言葉を投げかけられる事もあまりない。 あっても社交辞令というやつに決まっている。 なのでありさに突然褒められて、琉空の頬が少し朱に染まる。 「でた。琉空のネガティブ発言。何で琉空ってそんな自分に自信ないの?僕も格好いいって思うよ?琉空の事」 「っなっ、いや、っ、それは、どうも…」 更にまさかの未来にまで褒めらてしまい、琉空は頬をみるみる赤くしながら、しどろもどろになんとかお礼の言葉を口にした。 「あら、お顔が真っ赤ね。可愛い~っ。そういう謙虚な所もおばさん人気でるポイントだと思うのになぁ。ほら、芸能人って皆自信家じゃない?」 この子みたいに~、と未来の額を軽く小突きながらありさが言うと。 「っ、いいでしょ、別に。だって僕は事実可愛いも~ん。自信もって何が悪いの?」 ふんっと鼻で笑って未来はそう答える。 「っ、悪くはないけど、でもうざいっ。あなたそういうとこ改めないと、そのうち誰からも可愛がって貰えなくなるわよ?」 そんな未来の態度に眉を顰め、ありさは未来の為を思って口を出すのだが。 「ふっ、大丈夫だよ、母さん。謙虚でいい子な演技は得意だから。それにそんな馬鹿じゃないよ」 今度は人を小馬鹿にした笑みでそんな事をのたまう未来に、ありさのこめかみに薄い筋が浮かぶ。 「何それっ。本当に性格悪い子ねっ。何でそうなっちゃったのかしら。折角見た目可愛く生んであげたのにっ」 「だったら不細工に生めば良かったんじゃない?そしたら自信も何もないと思うし~」 あー言えばこー言う。 よくもまぁぽんぽんとテンポよく、こうも言葉が返せるものだと、ありさは未来のその頭の回転の良さに、我が子ながら呆れて思わず言葉を詰まらせた。 「っ、まぁっ、屁理屈ばっかりたたいて。琉空君、あなたよくこんな子と友達してられるわねっ。私だったら絶対嫌よっ」 もうクッキーあげないっ! と、ありさは未来に言い負かされた悔しさを、ものを取り上げるという子供じみた行為で発散さるが、それを黙って受け入れる程未来は大人ではない。 案の定わーつくと文句を言う未来。 琉空はそんな二人の騒々しいやり取りを、ははは、と乾いた笑いを浮かべながら、しばし見守る事を選んだ。 ありさが言う様に、何故未来と友達していられるのかは、琉空としてもちょくちょく謎に感じるが、しかし未来の性格に琉空はもう慣れてきていた。 だが、未来の様なタイプばかりがうじゃうじゃいそうな世界《芸能界》には絶対慣れないと思う。 だからやはり自分に芸能界など無理。 芸能人になど、自分は絶対なれないだろうなと改めてそう思った。

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