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第26話

ドラマ顔合わせの次の日。 朝のホームルームが始まる前の時間に、琉空は早速未来に昨日の様子を伺っていた。 「へぇ~、いい人で良かったな、井川君。めんどくさい人だったらお前確実にうざがられてたんじゃない?」 話を一通り聞いた後、琉空は頬杖を付きながらそう自分の感想を述べた。 「うん、そうだね。でもだからこそちょっとやりにくいな」 「は?何で?」 いい人と一緒に仕事出来るのだから、やりやすいとなるのが普通ではないか。 なのに何故か未来からは逆の台詞が返ってきて、琉空は頭の中に疑問符を浮かべた。 「だって僕奪っちゃうから。話題だけじゃなくて完全に主役の座を」 はぁ~、困ったな、とため息混じりにそう答えた未来に、琉空は思わず言葉を飲んだ。 「っ、何だそれっ。つかちょっと自過剰すぎじゃね?ブランクあるくせにさ」 まだ撮影が始まってもない、寛也と仕事を一緒にしてもない段階で、何故そんな大口がたたけるのかと、琉空は疑問でならないのだが。 「そう?そうでもないと思うけど?だって僕お芝居上手い自信あるから」 しかしやはり未来から返ってくるのは自惚れた台詞で。 本当に未来のこういう所には、琉空は腹立たしさを感じずにはいられなかった。 しかし芝居云々の話は琉空には分からないので、今回は言い返す事が出来ない。 彼に出来る事といえば、いつかその未来の長い鼻がへし折られればいいのにと心から願うことのみで。 「っ、あ~、そうっ!なら奪わないように加減して芝居すればいいだろっ。出来るんだろっ?お前ならっ」 「え、あぁまぁ、それは出来るけど…」 出来るがしかし、そんな事はしたくないと未来は思う。 寛也はそこそこ歴のある俳優だ。 駆け出しの俳優相手ならまだしも、寛也程の俳優を相手に、手を抜いた芝居などしたら余計相手に失礼だ。 解ってないなぁ、琉空は。 と、思うがしかし彼は素人だからしょうがない。 未来は心中でため息をつき、今後の身の振りをどうしようかと考えた。 ※※※ その日の学校帰りのレッスン。 未来が更衣室で着替えをしていると、右隣で着替える蒼真が言葉を掛けた。 「そういえば来月からだったよな?ドラマの撮影って」 「あ、はい。そうです」 「あれ?もしかして緊張してる?」 寛也の件があり、少し浮かない表情を浮かべながら答えた未来に、左隣で着替え終えた綾人がそう解釈して未来に投げかけた。 「え、あぁ、ん~…、まぁ少しは…」 久しぶりの撮影で、自分の復帰後初の仕事。 綾人の言う様に緊張も勿論していない訳ではないが、やはり寛也の事が気にかかっている未来としては、緊張より不安な気持ちの方が強かった。 「え~、意外っ。そんなん全然しないタイプかと思ってたのに」 「え?そんな事ないですよ。しますよ僕だって」 瞳を丸くして驚く蒼真に、未来は眉根を下げて笑って答えた。 「そうだよね。お前と違ってデリケートなんだよ、未來は。ね~?」 「ははっ、まぁそれなりには」 綾人の言うデリケートとな程繊細な訳ではないが、全くしないほど図太い訳でもない。 まぁでも、どちらかといえば自分はきっと図太いが強い方なんだろうなと、未来が心中で自嘲していると。 「あ、嫌がらせとかされたら言わなきゃ駄目だよ?」 「え?嫌がらせ?」 綾人が未来の目を真っ直ぐ見て、まるで幼い子供に言い聞かせる様に言った。 「そうそう。俺らが絶対助けてあげるからな?」 「あ~…、はい。ありがとうございます」 綾人に続き蒼真もそう言って未来の頭にぽんと手を置いた。 未来もそんな二人に、とりあえず笑顔で礼は述べたのだが、しかし二人の助けなんていらないと思う。 勿論心配してくれている気持ちは嬉しいのだが、だがその心配事がそもそもないだろうと未来は思う。 だって今回のドラマの役者達は殆どが皆大人だ。 なので嫌がらせなんてしょうもない事を、子供な自分にするとは考えにくい。 それに子タレの子達だって嫌がらせをするより、天才子役な自分に媚売った方が得だと思う子ばっかりだろうと未来は思うのだった。

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