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第48話
放課後の帰り道。
未来が琉空と共に最寄り駅までを歩いると
「そういえば今日からだよな、ドラマ放送。俺ちょっと楽しみにしてたんだよねー」
瞳を輝かせて言う琉空に、未来も自然と笑顔になった。
「ほんと?ありがとう。楽しんで貰えるといいけど」
録画もしなきゃと、何やら張り切っている琉空を他所に、未来の表情が少し陰った。
楽しんで貰うのは当たり前。
尚且視聴率も良くなければならないが、大丈夫だろうかと未来の脳裏に不安がよぎる。
このドラマが芸能界再スタートになる。
だからどうか良い感じの結果を残したいなと未来は思っていた。
※※※
自宅にてドラマ放送を母ありさと共に見終わり、リビングでまったりとありさが容れてくれたホットココアにちびりと口をつけていると、テーブル上にあるiPhoneが着信を知らせた。
悟さんと表示された画面を確認し、未来はスライドし耳にあてた。
「もしもし?凄いぞ、未來っ。初回視聴率26・8だったそうだ。凄くいい数字だよ。皆お前の復帰を待ち望んでいた証拠だな。おめでとうっ」
開口一番。興奮した声音で賛辞と共に伝えられた言葉だったが、未来の表情は優れなかった。
「ありがとうございます」
一応の礼を口にしながらも、心中では評価された筈のその数字に納得いかないでいた。
出来れば30%を超えて欲しかった。
それが出来ていたら文句なしの再スタートとなれたのにと、未来は悔しく思う。
「遠山さんもお前の事凄く誉めてくれているし、よくやったな。学校もレッスンもあるから大変だと思うけど、これからも頑張ってな」
「はい、頑張ります」
そう。もっともっと頑張らなければならない。
ダンスも歌も芝居だって、もっともっと高みを目指していかなければと、未来は自分に言い聞かせるようにそう思った。
※※※
次の日の事務所のレッスン。
未来が更衣室のドアを開けるやいなや、明るい声がかけられた。
「おっはよぉ~っ。未來~っ。ドラマ凄く面白かったよ~っ」
「うん、笹村ワールド全開って感じで凄く良かった」
蒼真と綾人は、そう言って未来に笑顔を向けた。
「本当ですか?ありがとうございます」
そんな二人に未来も綺麗な笑みでお礼の言葉を述べた。
「役もお前に凄く合ってるし、他の配役もいいよな」
純粋で素直な少年の役柄は、そのままの未来ではないかと蒼真は思う。
「うん。次が凄い気になるよ」
「あははは。次も面白いと思うんでちゃんと見てくださいね?」
「勿論見るよ。見てない人いたら番宣もしとくから」
綾人と話しながら、未来がロッカーに鞄を入れていると、既に準備の整った大和が声をかけてきた。
「未來、ちょっといいか?」
「?え、あ、はい。何ですか?」
こないだと同じような神妙な面持ちの大和に、今度は何だと未来は思う。
「え~っと、その、深谷君との事なんだけど…」
「え、あ、あぁ、何ですか?」
「何ですかって、まさかまだしてるの?」
少し顔を強ばらせて言う大和に、未来は何故か罰が悪く感じ、思わず言葉を詰まらせた。
「っ、え、あ、いや、し、してないですよ。大和君に言われて僕も駄目だなって思ったし、それにもうキスシーンは終わったから練習する必要ないですし」
何故こんな嘘を大和についているのか自分でも分からないが、何故か本当の事は言えないと未来は思ってしまった。
「本当に?本当にしてない?」
探るように自分を見てくる大和に、未来は僅かに体温が高まるのを感じるが、平常な声のトーンを意識しながら答えた。
「ほ、本当ですよっ。本当に本当っ」
めちゃくちゃ嘘を付いていることに内心焦りを感じていると
「なら信じるけど…。迫られてもちゃんと断らなきゃ駄目だぞ?もし言えないなら俺が言ってやるから、二度とさせちゃ駄目だからな?」
「は、はい、解りました。ありがとうございます」
念を押して言ってくる大和の視線に耐え難く感じながら、未来は張り付いたような笑顔で礼を述べた。
※※※
次の日の学校。
昼休みをいつもの階段の踊り場にてまったりしていた未来と琉空。
未来は昨日の大和との事を琉空に話すと
「嘘つき。本当はしてるくせに」
ジト目を自分に向けてくる琉空に、未来は少しばかりのバツの悪さを感じた。
「っ、だって、なんかしてるなんて言える雰囲気じゃなかったんだもんっ」
やましい気持ちから未来の声はいつもより大きくなってしまう。
そんな未来に琉空はあからさまにため息を一つ吐いた。
「何だそれ。まぁ、それもお前がいいならそれでいいけど」
「何それ。どういう意味?」
「嘘はばれるよ。ばれた時困るのはお前だよって意味」
嘘に嘘を重ねていけば苦しくなるのは本人だ。
そう琉空は思うのだが
「あぁ、そういう事。なら大丈夫だよ。だって嘘も方便って言うでしょ?」
しれっとそんな台詞を吐く未来に、琉空の眉間に皺が寄る。
「はぁ?何だそれっ。お前あんま調子に乗ってるとそのうち痛い目あうぞっ?」
「はは、それも大丈夫。だって僕は加藤未來だから」
ふふん、と鼻を鳴らしてどや顔を晒す未来に、琉空のこめかみに筋が浮かんだ。
「はっ?なんだそれっ。もう知らねぇっ。勝手に言ってろっ」
折角未来の事を思って言ってやったのに、もう二度とこいつの心配なんてしてやらない。
いや、絶対絶対するもんかと、琉空はそう胸に誓った。
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