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第49話
合同レッスン日。
レッスンが始まる前に一人の少年が皆の前に出て挨拶をした。
「中村陽太、13歳ですっ。宜しくお願いしますっ」
すっきりとした端正な顔立ちの、短い黒髪の少年、こと中村陽太は、緊張あらわに瞳を泳がせながら、深々とお辞儀をした。
13歳。という事は自分とためだなと、そう思い未来は少し興味深そうに陽太に視線を向けた。
初々しい装いでぺこぺこと周囲に頭を下げている陽太を視界に、同じ年という事に少し引っかかりを未来は覚えた。
年が同じという事で、どうしたって比較されがちになる。
変にライバル視をされるとうざいし面倒臭い。
だから陽太とは程よく距離を保った方が無難かなと未来は思っていたのだが
「凄いっ!ダンスめちゃめちゃ上手いですねっ。本当凄いっ。めっちゃ格好いいですっ」
自由レッスン中。
未来のダンスに目を奪われた陽太は、それが終わるや否や瞳を輝かせながらそう感心した。
「ありがとう。でも同じ年なんだからさ、敬語なんて止めようよ」
自分を褒めたたえて来た陽太に、つい先程まで抱いていた警戒心が、嘘のようにあっという間に急激に下がった。
「えっ、いやでも…」
「ってか出来れば使ってほしくないんだよね。なんか壁を感じるっていうか。事務所の人達皆年上だし、同じ年の子いなかったから陽太君が入ってきてくれて嬉しかったし。だから僕は仲良くしたいんだけどな」
いけしゎあしゃあと、当初の気持ちとは真逆の事を口にしている未来だったが、その顔には綺麗な笑顔が浮かべられ、それを目の当たりにした陽太の心はドキドキと高鳴っていった。
「えっ?そんなっ、俺も勿論仲良くしたいってかしてほしいですよっ。けどでも先輩だし…」
謙虚で従順そうな陽太の言動に、未来は陽太となら上手く仲良く出来るのではないかと思った。
「あはは、そんなの関係ないよ。だって僕も1月に入ったばっかだしさ、気にしないで?友達同士で敬語って変じゃん?」
「っ、いや、それはそうですけど…」
未来の申し出に、陽太は目を見開いて言葉を詰まらせる。
だって友達?俺が加藤未來と友達?
そんな日が来るなんて思いも寄らず、ただただ目の前の出来事を信じられないでいると
「だから敬語は止めてね?あと未來でいいから。これから宜しくね」
「え、あ、はい…」
「はい?」
「いや、うんっ。こちらこそ宜しくっ」
差し出された未来の手に、おずおずとその手を握り返しながら、陽太は内心で破裂しそうな気持ちをなんとか抑えるのに必死だった。
だってあの天才子役の加藤未来と友達になれたなんて。
どうしよう、嬉しすぎる。
家に帰ったら母さんに自慢しなくてはと、陽太がそんな事を思いながら顔を赤く染め興奮している姿はなんとも可愛らしく、未来は陽太にばれないようにくすりと笑った。
陽太のような芸能人に全く免疫のない、所謂ド素人は未来としてはとても扱いやすく感じていた。
図々しい子は勘弁だが、陽太からそんな素振りは今の所ない。
同じ年の子と関わる事は仕事では余りないので、これから楽しくなりそうだなと未来は思った。
※※※
次の日の学校。
未来と琉空の特等席である窓際の後部席。
未来は陽太の事を琉空に話していた。
「超意外なんだけど。何で?話が合わないんじゃなかったっけ?素人とは。だってドラマの共演者より断然そいつの方が素人じゃん」
そう言って、琉空はその瞳を少しばかり丸くして未来を見つめた。
「あ~、まぁね。だけどドラマの子達みたいに一時の関係じゃないから。これからきっとデビューするまで一緒にレッスン受けてくわけだし」
「まぁ確かに。でもだから仲良くしてくって事?それって何か打算的で嫌な感じ」
仲良くするのがそんな理由なんて何だかなと琉空は思うのだが、未来はそうとは思わないようで
「そう?一般的な感覚だと思うけど?だって琉空だってご近所さんやクラスメイトとは仲良くしたいって思うししてるでしょ?例え話が合わなくたってさ。それと同じだと思うんだけど?」
確かに一理あると琉空も思う。
しかしだとするなら自分の事はどう思っているのだろうと、琉空は少し不安を抱いた。
「ってかさ、じゃぁ何?俺もクラスメイトだから仲良くしてくれてるって事?」
少しドキドキしながら琉空は尋ねた。
そしてそうじゃないと否定して欲しいと期待を込めて未来を見つめていると。
「あぁ、まぁ最初はそうだったよ。席隣だったし」
「なっ、ひどっ!」
しれっと肯定した未来に、琉空は目を見開き声を荒らげた。
しかしそんな反応をする琉空の気持ちが未来には理解できなかった。
「何で?自分だってそうでしょ?最初はただのクラスメイトとしかお互い思えないじゃん。だって相手の事なんて全然知らないんだもん。でも仲良くしてくうちにお互いの事知って打ち解けれて、始めて友達になるんでしょ?話があったり居心地がよかったり、それは最初からは解らないじゃん?仲良くしてみないとさ」
「っ、そりゃそうだけど…。じゃぁ、俺の事は今は友達と思ってくれてるって事?」
未来の言い分は分かったし、確かにそうだなと納得も出来た。
しかし琉空が気になるのは自分と未来の関係性だった。
「は?そんなん当たり前でしょ?じゃなかったらこんな常に一緒になんていないってか居たくないよ」
「そ、そうだよなっ。あ、じゃぁその中村君、だっけ?ともちゃんと友達になれるといいな。折角仲良くするならさ」
未来が自分の事をちゃんと友達と認識していてくれた事に安堵のため息を漏らしながら、すっきりとした爽やかな笑顔で琉空はそう言った。
「あぁ、そうだね」
琉空につられて未来もとりあえず笑顔で答えるが、実際陽太と友達になれるかどうかは微妙だなと思った。
友達とは対等な者をいうと未来は思う。
琉空は自分と同じ立ち位置で会話してくれるが、陽太にそれが出来るだろうか。
今の所それは中々に厳しそうだなと、未来は昨日の陽太を思い出しながら悟っていた。
がしかし、何はともあれこれから彼とは長い付き合いになるかもしれないので、少しでもいい駒になるように教育してかなければと未来は思った。
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