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第55話

河川敷でのロケ撮影の本日。 朝早くからの撮影に、一区切りを入れるスタッフの声がかかった。   「じゃぁ今から1時間お昼休憩入れまぁすっ。各自お弁当選びに行ってくださぁいっ!」 簡易待機場所で斗亜と共にいた未来は、お弁当を貰いに配給されている場所に向かった。 スタッフや役者らで少し賑わう橋の下。 5、6種類程のお弁当が人数の倍数程で用意され、街中のお弁当屋さんの様に並べられていた。   「ん~、どうしよっかなぁ~。エビフライもいいし、ハンバーグも食べたいし」 瞳をさ迷わせながら、お弁当を真剣に吟味している未来の様が斗亜にはとても可愛く見えた。   「ふっ、ならシェアする?そしたら両方食べられるよ?」 「あ、そっか。でもいいの?」 「勿論。僕もどっちも好きだから」 そう言ってエビフライ弁当とハンバーグ弁当を一つづつ手にした斗亜は、柔らかい笑みを未来に向けた。   「じゃぁそうしよっか。え~っと、どこで食べよっか?外?ロケバス?」 「ん~、じゃぁあっちの公園の方行こうか」 斗亜の申し出にそうだねと、笑顔を浮かべた未来は、二人でそちらの方へ向かっていった。   護と敦、他に数人のスタッフがいるロケバス。 お弁当を食べ終わった百花は、ひょこりとそこに顔を出した。 キョロキョロと辺りを見渡すがお目当ての人物、未来はそこには居なかった。 撮影場所近くに設置された昼休憩様のテントの中にも居らずここにもいない。 どこ行ってしまったのだろうと、百花はむすっと頬を膨らませた。   「ねぇ、護君っ!未來君知らない?」 唐揚げを頬張っている所に声をかけられた護は、急いでそれを飲み込むと、先程二人でどこかに行った彼らを思った。   「え?未來?未來なら斗亜君と一緒だと思うけど?」 斗亜君。 また斗亜君かと、先日も斗亜と二人で未来がどこかに行ってしまったことを百花は思い出す。   「そっか、ありがとう…」 一応の礼の言葉を護に言うと、百花はロケバスを降りた。 どこに行ったか、その先が分からなければ意味がない。 百花は下唇を少し噛みながら、面白くなさそうな顔をした。 だってまた先を越されてしまったのだ。 深谷斗亜に。 もうすぐ撮影が終わってしまうと言うのに、このままではなんの進展もないまま終わってしまうじゃないかと、百花は焦りを感じていた。 そしてそんなのは絶対嫌だ。 こうなったら明日は必ず斗亜より先に未來に声をかけて、二人きりの時間を作ってやる。 絶対絶対、斗亜より先に話しかけるんだと、そう闘志を燃やしていた。   ※※※   そして翌日。 スタジオ内での撮影に一区切りがつき、待ちに待った昼休みタイム。 だか、百花は遠山に呼ばれ一人撮影場所に残っていた。   「だからね、このシーンはもう少し口調や仕草を柔らかく、マイルドにして欲しいんだよ、マイルドに」 「あ~、はい…」 遠山が身振り手振りで一生懸命百花に説明するも、彼女の心はここに在らず。 それ所か、いつもは自分なんかスルーしている遠山が、何故今日に限って話しかけてくるんだよと、心中で悪態をついていた。 「解ったかな?」 「はいっ。解りましたっ。じゃぁ失礼しますっ」 話半分にしか聞いていなかった百花だが、早々に遠山の元を去り向かうは未来の元。 きっと未来は斗亜と居るだろう。 先に話かけるという当初の作戦は難しいだろうから、こうなったら作戦Bに切り替えてくしかないなと、そう思いながら足を早めた。 「え、相談?僕に?」 お弁当を手に、楽屋までの廊下を歩いていた所百花に呼び止められた未来は、彼女の切羽詰まった表情に戸惑っていた。   「うん。だからちょっと二人になれないかな?駄目?」 「え、でも…」 嫌とは言わせないぞと、そう言わんばかりの百花の勢いに気をされた未来は、ちらりと隣にいる斗亜に視線をおくった。 「聞いてあげたら?僕に気を使わなくていいし」 相談などと、なんてね白々しい理由なんだと斗亜は思うがしかし、そろそろ百花が何かしらアクションを起こして来るだろうと思っていたので、ここは彼女の思うようにさせてみてもいいかもしれないと斗亜は思ったのだ。   「え、でも、それじゃぁお弁当は?」 てっきり斗亜が助け舟を出してくれるとばかり思っていた未来は、まさかの斗亜の反応に驚き瞳を丸くした。   「好きなだけ未來が先食べていいよ。だから行っておいで?」 柔らかい斗亜の微笑みに、それでも未来は戸惑いをあらわにするが、そんな未来に百花が気づく筈はない。   「ありがとうっ、斗亜君っ。行こ?未來君っ」 「え、あ、うん」 ぐいっと、思いのほか強い力で腕を掴まれた未来は、百花の言動の強引さを不快に思い、少しばかり眉根を寄せた。 というかそんなにまでして自分に何の相談があるって言うのだと未来は思う。   「行ってらっしゃい」 引きづられるように百花に連れていかれた未来に、斗亜は相変わらず柔らかい笑みを浮かべながら手を振った。 がしかし、内心では自分に礼なんかを述べてきた百花を、心底馬鹿な女だなと嘲っていた。 未来との貴重なランチタイムを邪魔されたのは腹が立つが、しかしそろそろ百花には現実を見させなければならないと斗亜は思っていた。 だからこれは絶好の機会。 馬鹿は懲りなきゃ治らないと言うし、せいぜい身の程を知ればいいんだと斗亜は思う。 なんの努力もしないで女というだけで未來に近づけるなど、思う事すら図々しい。 未來は百花みたいな女を相手になどしない。 未來に馬鹿な女は相応しくないと、斗亜はくすんだ瞳で未来と百花の後姿を見つめながらそう思った。

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