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第54話
レッスンの休憩中。
未来が大和と蒼真、綾人の三人で談笑しながら寛いでいると、入口から声がかけられた。
「未來、ちょっといいか?」
手招きしながら自分を呼ぶ悟に、未来はすっと腰をあげた。
「はい。何ですか?」
「あぁ、実は次の仕事の話なんだがな」
「え?次の仕事?」
思いもよらない悟の言葉に、未来は大きな瞳をさらに大きくして驚いた。
※※※
次の日の学校。
授業開始のしばしの時間。
未来と琉空の特等席の窓際後部座席で、未来は昨日の悟からの仕事の話を琉空にしていた。
「わぉっ!凄いじゃんっ。映画の主役なんてまじですげーじゃんっ」
琉空は瞳を煌めかせ、バシバシと未来の背中を叩きながらそう言った。
「うん、まぁね。でも僕主役って初めてだし、しかも映画とか出た事もないからちょっとっていうか結構不安なんだよね」
琉空のテンションとはうって変わって、眉根を下げてため息混じりに未来は話した。
「不安?お前が?お前でもそう思う事あるんだな」
「は?そんなの当たり前でしょ?映画の主役なんてそんな簡単に出来る事じゃないんだから」
まじまじと、珍しいものでも見るかの様な眼差しを向けてくる琉空に、未来は心底失礼な奴だなと思う。
「いや、そのくらい俺だって解ってるけどさ。まぁでもお前なら大丈夫っしょ」
そう言ってケラケラと笑う琉空に、他人事だと思ってと未来は小さなため息をついた。
※※※
スタジオ撮影の待ち時間。
待機室にて斗亜と共に過ごしていた未来は、やはり次の仕事、映画の話を斗亜にも相談していた。
「大丈夫だよ、未來なら。だって演技力あるし知名度も高いし、そんな不安になる事ないよ。ってか絶対ヒットするって僕は思うよ?」
琉空のようにとってつけたような適当な大丈夫ではなく、しっかりと理由も付けて自分の不安を拭ってくれようとする斗亜に、未来はやはり彼に話を聞いてもらって良かったと思う。
「そう、かな…。まぁ、そうだといいってかそうしなきゃいけないんだけど…」
「こら、良くないよ?そんなプレッシャーばっか感じるのは。芝居は楽しいものでしょ?」
「そうだけどっ、いや…、うん、そうだよね」
斗亜の言うように、折角だから楽しんでやらなければと未来も思う。
がしかし、もしこけたりしたらどうしようと、その不安は中々拭えない。
そもそも共演者は誰なんだろうか。
まだ殆ど決まっていないと悟からは聞いたが、出来れば自分よりネームバリューのある人達に多く出てほしいと思う。
そうすれば万が一映画が不評でも、多少なりと責任転嫁出来るのではと未来が思っていると
「ってかSF映画なんだよね?じゃあアクションとかもあるの?」
「あ、うん、一応予定では」
どの程度のアクションをやるかまでは聞いていないが、悟の話ではそうと聞いていた。
「そうなんだ。じゃあ筋トレとかしてもうちょっと体重も増やさないとね。未來細いから」
まだ子供の体という事も大いにあるが、それにしても同年代の少年達より遥かに華奢な体つきの未来なので、アクションをこなすには今のままでは難儀そうだと斗亜は思ったのだが
「いや、でも都会のもやしっ子でひ弱な設定だから、そういうのはしなくていいって。寧ろもうちょっと痩せてくれてもいいって監督が言ってたみたい」
「え、中々厳しい監督だね」
これ以上痩せたら消えちゃいそうな未来の体型で、さらに痩せろとは中々無茶を要求するなと斗亜は思う。
「でも今凄く注目されてるよね、湊泰輔監督って」
若手監督の中ではピカイチだという湊の作品は、未来も何作か見たことがあり、どれもとても面白かった。
だから悟から湊作品に出れる、しかも主演と聞いた時は本当に嬉しかったのだ。
「そうだね。そんな監督の映画の主演なんて、流石未来だね。だけどもうすぐ撮影が終わっちゃうなんて寂しいな」
「あははは、僕も寂しいよ」
肩を落として寂しそうに笑う斗亜に、未来は同調しながらも大袈裟だなと思った。
「でも未来と一緒にドラマやれて本当に楽しかったよ。ありがとね」
「それはこちらこそだけど、ってかまだまだ終わってないじゃん」
気が早すぎだよ、斗亜君と、そう言ってケラケラと笑う未来に、それもそうだねと斗亜は返すが、しかしこのまま永遠にでも一緒に仕事をしていたいと思う斗亜としては、どうしても終わりが近づいてくる日々が切なく感じてしまっていた。
だからどうか、このまま楽しく撮影が出来ますようにと願った。
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