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第59話

週末開けの学校。 教室では休みの日をどうしていたかなどを生徒同士で話あい、そこかしこで会話の花が咲かされていた。 窓際の後部座席。 例に漏れず未来も週末の撮影の話、ではなく百花の話を琉空にしていた。   「ふ~ん、じゃぁそれからはもう百花ちゃんはお前に構ってこなくなったの?」 あらかたを聞いたのち、琉空はそう未来に質問した。   「うん。一切。結構はっきり言ったから勘違いなんてしようがないと思うし」 ほっと安堵の表情を浮かべ言う未来に、琉空も同調した。   「そっか。良かったな。けどでも珍しいな。八方美人なお前が他人に、それも女の子にマイナスイメージ持たれる事言うなんてさ」 アメリカで過ごした日々が影響しているのか、未来は学校の女生徒だけでなく女教師にも、いつだって優しくフェミニストを通している。 だからどんな理由であれ、今回の行動は未来としては異例だなと琉空は思った。   「ん~、僕も出来ればあんな事言わずに済ませたかったんだけど、でももうすぐ撮影も終わるしさ。だからもういっかなって」 「は?だから?」 琉空は未来の言わんとする事が分からず、小首を傾げて疑問符を浮かべた。   「うん。だって今の撮影が終わったらあの子と関わる事はもうないと思うし、だったらどう思われたって別にいっかなって」 「いや、でもそんなん解んなくね?またドラマとかで共演するかもしれないじゃん」 未来に振られたからといって、百花が芸能界を去る訳では無い。 一度共演すると再び共演する確率が高くなる。 琉空はドラマを見ていてそんな風に感じていたが 「え~、しないよ。あんな素人同然の子役となんか僕が二回も。それにもしそうなったって拒否すればいいだけの話だよ。あの子の代わりなんていくらだっているんだから」 ないないと、未来はせせら笑いをしながらそうきっぱりと言い切った。   「っ、あっそ~。それって自分の代わりはいないけどって言ってる?」 「そんなの当たり前でしょ?僕の代わりなんているわけないじゃん。だって僕は加藤未來なんだから」 高らかな笑い声が聞こえてきそうなドヤ顔で言う未来に、琉空は口端を引き攣らせ、薄らとこめかみに筋を立てた。 言うと思った。 未来お決まりの、加藤未来なんだからという決め台詞。 言うと思ってたのに、それを言わせやすくするかのような振りを、何故自分は毎度してしまうのだろうと、琉空はそんな自分に一番腹が立った。 ※※※ レッスン日。 着替え終わったstudents達が各自ストレッチをして体を解している所に、ガチャりとドアが開きダンス講師の江口が部屋へと入ってきた。 「は~い!レッスン始める前に今日は一人新人を紹介するぞ~。皆集まれ~!」 手を叩きながらそう言う江口の元に、そそくさとstudents達は集まっていった。 そして江口の隣に立つ一人の少年に視線は集まる。   「山内流星です。宜しくお願いします」 江口に促されて抑揚のない声で挨拶した少年、山内流星は、中肉中背の高めの身長で、すっきりとした顔立ちの黒髪の少年だった。 「なんか、大人しそうな人だな」 「うん。俺が言うのもなんだけど、華がない人だよね」 流星を遠目に見やりながら、大和と蒼真がそうひそひそと話す。 そんな二人のやり取りに、未来も確かにと心中で同調した。一見どこにでもいそうな少年な流星。 だがしかし、何か飛び抜けた才能でも無ければオリバーには入れないのではと、未来は探るような視線を流星に向けた。   「頭はめちゃくちゃいいみたいだよ?現役東大生、らしいから」 「東大っ?まじっ?そりゃ凄いな」 綾人が仕入れたての情報をぽそりと口にすると、大和が絵に書いたようなリアクションでそれに応えた。 しかし成る程。そっち系かと、未来は納得した。 東大なんて、限られた僅かな人間しか行けないもの。 確かにいい響きのキャッチフレーズが付けられるが、しかしでも、自分のライバルにはなり得ないからどうでもいいかと、未来は早々に流星への興味を無くしたのだった。

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