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第2話

 懐かしいーー  嵐太は、母校の校門を潜ると満開の桜並木を眺めた。  浮かぶのは聖の事だ。あの時の自分は子供で、男同士で付き合う、という概念がなかった。  (キスまでしておいて酷え男だよ)  今思えば、あれはちゃんと恋だったと思う。好きだったから聖にキスをした。あれから六年経った今でも、聖を忘れる事はできずにいた。  職員室の前にはもう聖の絵は飾られておらず、野球部の優勝旗が飾られていた。時は確実に流れてしまっている事を酷く実感して、悲しくなってしまった。  ひと通りの訪問と取材を終えると、 「西選手、ちょっといいですか?」  取材してくれた女性記者が声をかけてきた。言われるまま着いていくと、そこは美術室だった。 「実は、西選手にプレゼントがあります」  女性の後ろにイーゼルがあり、それには白い布が掛けられていた。 「布を外してみてください」  嵐太の心臓が大きく鳴り出した。布を外す手は震え、汗も出てきた。  (まさか……)  震える手でその布を外すと、そこにはB4サイズ程のキャンバスに描かれた自分の姿だった。リング向かって大きく羽ばたき、その背に天使のような翼が生えていた。  絵を見た瞬間、自然と嵐太の目から涙が溢れてくる。  (先輩……描き上げてくれたんだ)  その絵は間違いなく聖のものだと確信する。散々、デッサンを見てきたのだ。間違えるはずがない。  まさか泣くとは思わなかったのだろう。泣いている嵐太に女性記者は驚いている。 「この絵は……」  シャツの裾で涙を拭い尋ねた。 「今、こちらの学校で美術の教師をなさっている、三波さんからです。三波さん、西選手のファンで、是非これをと。ご存知ですか?二学年上だったみたいですが」 「はい、もちろん。彼にお礼が言いたいので、連絡先を教えてもらえますか?」 『まだ校内にいらっしゃると思いますよ。職員室に行ってみては?』  そう言われて、職員室を訪ねたが聖はいなかった。職員室にいた教師に、喫煙所にいるのでは、と教えられ、校舎と校舎の間のその狭いスペースにある喫煙所まで走った。  遠目から華奢な背中が見え、嵐太はその背中めがけて抱きついた。 「先輩!」 「あ、嵐太!?」  タバコを手にした聖は目を丸くし、目の前に現れた嵐太に驚いている。 「先輩、あの時はごめん!好きなんだ!今もあんたを忘れられない。もう一度やり直しさせてほしい」 そう捲し立てるように言った。  もしかしたらもう恋人がいるかもしれない、結婚しているかもしれない。そうだとしてもこの気持ちだけでも伝えてたいーー。 「嵐太」  聖はそっと振り向くと、綺麗な笑みを浮かべていた。 「俺も好きだよ、今も」  その言葉を聞いた瞬間、嵐太は堪らず聖にキスをしていた。  そのまま二人は聖の住むアパートに行き、ひとしきり抱き合った。 ベッドの上、嵐太は聖を後ろから抱きしめ、イーゼルに置かれた絵を二人で眺めた。 「タイトルとかあるの?」  嵐太が聞くと聖は首を振った。 「コンクールに出すわけじゃないから」 「付けてよ」  素敵なのね、そう一言付け足す。  しばし聖は考えると、 「初恋」  聖は美しいまでに幸せそうな笑みを浮かべた。 「うん……最高に素敵だ」  嵐太は聖のその綺麗な笑みに堪らずキスをすると、二人は再びベッドに潜り込んだ――

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