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第2話
「亜弓は、ほんとに色が白いね」
肌を嬲りながら、中村が感心して言う。
「俺、日に焼けても黒くならないんです。一時的に赤くなって、すぐ元に戻る体質で」
「ふうん。あのね亜弓、そういう人は肌があんまり強くないんだ。日焼けして色が黒くなるのは、肌を守るためにメラニンが生成されるせいだからね。皮膚癌とか気をつけなよ。僕はきみのこんな綺麗な体にメスを入れるなんていやだからね」
中村は亜弓の体を綺麗だというが、三十男にその形容はそぐわない気がした。
この関係が和姦の強要から始まったことを胸に返して痛みながら、亜弓は貧相な裸体を白いシーツの上に投げ出した。のしかかられうつぶせにされて、血の気が引きひどく青ざめた頬の片方を枕に埋める。
これから中村の雄を受け入れさせられる場所に冷たいぬるみを塗り込まれ、屈辱のあまりにくちびるを噛んだ。
中村が亜弓の背に胸を合わせてくる。体が恐怖に竦むが、抵抗はとっくに放棄していた。
「う……」
喉の奥から、苦痛を殺すような掠れたうめきが漏れる。
「亜弓、力を入れないで」
囁いた中村が痛みに萎えた亜弓を握り、性感を押し付ける。もう片方の手が、噛み締めすぎたくちびるを開かせ、指が口腔を犯す。シーツを握った手に力がこもり、近づいたり遠ざかったりする痛みに喘ぎ、声にならない悲鳴を上げた。
中村の下で無意識に逃れようとのたうちながら、亜弓は泣いた。いつもと同じ絶望に殺される。
白かった亜弓のキャンバスは、少年期の幸福の終わりとともに滅茶苦茶に汚された。長い年月をかけ、それは真っ黒に塗りつぶすという形でようやく体裁を整えられたのに、こうして今、突き立てられた鋭利な刃物でズタズタに切り裂かれてゆく。
防波堤に打ち上げられた魚のように声もなく浅い呼吸を繰り返しながら、昏い絶望に囚われて亜弓は身動きできなくなる。
自分が男に抱かれている事実を否定しようなどと、そんなことは初めの数回で諦めた。
所詮自分はこうして男の力に屈して這わされるのが似合いなのだと、黙って瞼を伏せた。
シーツを握り込んでいた指を開き、亜弓は虚ろにてのひらを見つめる。
この手から、一体どれほどのものがこぼれ落ちていったのだろう。あるいは最初から何も得てなどいなかったのだろうか。
「んあっ…!」
ひどく揺すぶられて、高く喘いで枕に縋った。
「…亜弓」
低く呼びかけながら肌を探る中村の手の優しさが気に入らず、振り払うように身を捩る。そうして、一方的に与えられた性感が肉体の表面をすべり、全ての痛みを消してくれる瞬間をひたすらに待つ。
結局最後は、亜弓にできるのはそれだけなのだ。
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