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第15話
「ほんとに亜弓も行くの?」
そう聞かれ、亜弓は不満げな声を上げる。
「なんで俺が行っちゃダメなんですか。三人でって言ってるのに」
秀明のバイトの休みと、中村と亜弓の早番がやっとかち合った日の晩、約束通り三人は待ち合わせをして飲みに行くことにした。だがいつまでもぐずっているのがこの中村である。
「だってさ。いやだよ、自分の恋人を横恋慕してる奴に会わせるのは」
『恋人』という部分に顔を赤くして、亜弓はソファに座ったままの中村にすり寄った。
「俺、秀明と浮気なんかしませんって。中村さん一人でも大変なのに、この上他の男相手にできるほど、俺若くもないし」
そんなことを言う亜弓の額を、ペシと中村がはたく。
「なにお下品言ってるの」
「だってほんとだもん。俺二月で三十一ですよ。しばらく中村さんより二つも年上なんですよ」
もうすぐ誕生日を迎える恋人の顔を、中村はげんなりと見つめる。
「年上……だったね、そういえば。ダメだ、きみのその成長し損ねた顔見てるとよく忘れるんだよ、それを」
「…中村さん。ソレさすがに失礼です」
「あー悪かったね、誕生日には何か買ってあげるから考えておいで。じゃあそろそろ出ようか」
壁の時計を見上げて、観念したように中村は亜弓を連れて立ち上がった。
中村の豪華な広いマンションを出ると、年末の近づいた外気は、今月に入って急に冷たくなっていた。腕を抱えた亜弓の肩を中村が抱く。
「大丈夫?」
「あ、平気です」
ちょっとしたことですぐ顔を赤くする亜弓に、中村は幸せそうな微笑を浮かべた。今亜弓が自分から離れていったら、生きていけないなと思う。
「何ですか?」
見上げた亜弓に、中村は首を振る。
「なんでもないよ。行こう、向こうでそろそろタクシー待ってるはずだから」
「はい」
体を離して、歩き出す。
角を曲がったところで、二人を待っていたタクシーが、テールランプを光らせた。
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