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1 人間界への未練【彰、過去を忘れて淫らに堕ちる。】

 彰が、アルカシスの性奴隷(ペット)となって既に幾月が過ぎた。彼の監禁されている部屋には、主であるアルカシスと姉のエリザベータが様子を見にくるだけで、他の淫魔達の出入りはなかった。  天蓋ベッドの柱の一つに首輪から伸びる鎖で繋がれた彰は、ほとんどの日をベッドの上で過ごす事が多くなった。  自分があの男の性奴隷(ペット)になって、もうどれくらい経ったのだろうか。  彼が見せた鏡に映った人間界では、失踪した自分の存在は忘れられて、いつもと変わらない日常が映し出されていた。  それが、無性に腹立たしかった。  同時に、寂しかった。  誰か一人でもいい。自分がいなくなってしまった事に気づいてほしかった。  でも、それも叶わない夢となった今、彰はアルカシスの性奴隷(ペット)としてこの淫魔界で生きる事しか選択は残されていないのだから。  ベッドで寝返りを打った彰は、目頭から一筋の涙を流した。  本当は人間界に帰りたい。誰も待ってはくれなくても、5年間仕事と自宅を往復するだけだった、一人暮らししていた頃に戻りたい。  ふと、部屋の両開きの扉が開き、一人の男が入室した。  艶やかに靡く銀色の長髪が印象的な男。仕立てのいい白いスーツとワイン色のシャツが銀色の髪にとても似合っている。  彰を性奴隷(ペット)に堕とした淫魔王アルカシスが入室した。 「あっ・・・アルカシス様」  ベッドに寝ていた彰はすぐに起き上がり、深々と頭を下げた。アルカシスは主従関係を厳格に線引きしているため、彰が自分への忠誠がないと判断されれば、彼からきつい折檻を受ける事になる。そのため、彰がアルカシスに頭を下げるのは彼への忠誠を示すためでもあるのだ。 この部屋は、淫魔王である彼の一室で、自分はこの傲慢で美しき異人の王の慰み者に過ぎないのだ。  自分への忠誠が根付いている事に満足した淫魔王は、溺愛する性奴隷(ペット)にニコリと微笑んだ。 「ただいま、ショウ。おや?」  彰の目頭から涙が枯れた痕跡を見つけたアルカシスは、軽く目頭を指で優しく拭った。その動作に彰はドキッとした。 「泣いていたのかい?私に会えなくて寂しかった?」 「そ、それは・・・」 ーー人間界に帰れない寂しさが募って。  なんて言ってしまえば、彼は徹底的に自分の性奴隷(ペット)である事を教え込むだろう。  最終的に奴隷契約書にサインし、宣誓したのは彰だ。証人として、彼の姉のエリザベータや彼の部下達もその場に立ち合っている。  アルカシスは、サラッと靡く彰の黒く艶のある長い髪に指を絡めた。淫魔界に彰を連れてきた当初は、短髪でゴワゴワした固い髪質だったが、アルカシスに丁寧にケアされて今では見違えるような美髪に変わった。 「だいぶ柔らかくなったね。君はあの固い髪よりも、こちらの髪質の方が君の黒い髪質を美しく際立たせる。これからも私が丁寧にケアしてあげるから、自分で手を加えてはダメだよ」 「・・・はい。アルカシス様」  彰は、アルカシスに甘えるように彼の肩に腕を回して抱きしめた。  アルカシスの性奴隷(ペット)になってすぐに彼が彰に施したのは、彰の身体と心のケアだった。  淫魔界に連れて来たばかりの彼は、彰の痩せた身体に強付いた髪質、他人を必要以上に避ける厭世的な性格で、まるで乞食そのものだった。そのためアルカシスは、まずはそれらの矯正に乗り出した。  栄養のバランスが取れた食事、適度に決められた睡眠、必要な運動に、オイルを加えた髪のケア、そして、彼が安心できる居場所を提供した。  するとみるみる彰は、アルカシスの望む美しき性奴隷(ペット)へと変貌した。時間はかかったが、自らが施したケアの効果を感じ取ったアルカシスは満足し、彰を溺愛し愛情を込めて抱いた。  人間界に住めば、一生享受できる事はない快適な暮らしにぬるま湯のように浸り、彰も一時はこれでいいのだと自分に言い聞かせた。  淫魔界での生活は自分が自由を無くした性奴隷以外を除けば快適だったし、今まで一人で生きてきた分、アルカシスの過剰な愛情は逆に居心地良かった。  人間界への未練が出始めたのは、淫魔界での生活に慣れ始めた、ここ最近の話だ。  家族はどうしているのか。兄はもう結婚して幸せな家庭を築いている筈。もう自分が入り込む余地はないのは承知しているがせめて一眼顔を見たかった。  会社は・・・もう、自分はクビになっているだろうから、誰も覚えてはいないだろう。  彰の甘える仕草に、アルカシスはご褒美として彼の額にチュッとキスを落とした。  自分の性奴隷(ペット)に堕として以来、彰にこのように甘えるよう教えた。飴と鞭を使い分けて教え込んだ主従関係は、すぐにこの子の身体に馴染んだ。  今のこの子の様子なら、部下達も喜ぶだろう。  アルカシスは口端を吊り上げ、彰を抱き抱えて自室を後にした。 「さて、ショウ。私と食堂に行こうか。良い物が手に入ったんだ」

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