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2 思い出のショートケーキ【彰、過去を忘れて淫らに堕ちる。】

 アルカシスは、彰を抱き抱えられたまま食堂へ到着すると、白いテーブルクロスが敷かれた長テーブルのうちの一つの椅子に彰を座らせた。  彼の真意が分からず、困惑した表情で彰は見上げた。 「今日はね、私の部下達に美しくなった君の披露目会を開いて欲しいと要望されたんだ。覚えているかい?君が私の性奴隷(ペット)になると宣誓したあの日に、姉さんと証人になってくれた者達だよ」 「あの人たち、ですか?」  それを聞き、彰は思い出した。  自分がアルカシスの性奴隷(ペット)になると宣誓した時に祝福の言葉を叫んだ者達だ。しばらくはアルカシスやエリザベータ以外会う事がなかったからか、それは遠い昔のように感じられた。 「そう。彼等は私の忠実な部下達だ。私が人間からいずれ性奴隷(ペット)を見つけて来ると見越していてね。あの日は楽しみで姉さんと参列していたんだよ」  宣誓後、目の前の彼に激しく抱かれた事を思い出した彰は恥ずかしくて全身を真っ赤に染めた。  テーブルに座らせて、アルカシスがこれから何をしようとしているのか、彰には検討がつかなかった。  アルカシスは一度彰から離れると銀色の盆に彩り豊かなケーキを一切れずつ分けた物を彰に見せた。  それに彰は怪訝な顔色で尋ねた。 「ケーキ、ですか?」 「そう。ショウはケーキは好きかな?クリームと苺が乗ったショートケーキはお勧めだよ」  アルカシスは、彰に見えるように盆を近づけた。盆にはショートケーキの他にチョコレートケーキ、苺のタルト、モンブラン、チーズケーキにティラミス、抹茶の粉がかかっている抹茶ケーキもある。  彰は、差し出された盆とアルカシスを見比べた。  怪しい。自分を性奴隷(ペット)と言って主従関係を作った男が、なぜ彰にケーキを差し出したのか。  躊躇う様子の彰に、アルカシスはおや?と尋ねた。 「ショウはケーキが好きじゃなかった?どれもなかなか美味しかったから、ショウにも食べてもらおうと思って取り寄せたのに」 「え、俺のため?」  何だが面食らう。本当に自分のために持って来てくれたのか。  彰自身、ケーキは好きだった。祖母が存命だった頃、彼女はよくショートケーキを彰のために買ってくれた事が今では懐かしい。それを思い出すと、彰は無性にショートケーキが食べたくなった。 「ショートケーキ・・・お願いします」 「フフフ。はい、どうぞ」  アルカシスはショートケーキを小皿に移すと、小さなフォークと紅茶を添えて彰の目の前に出した。クリームが乗った部分からフォークで掬うと彰は一口口に入れた。  甘くて美味しい。祖母が買ってくれた記憶が蘇って涙が出そうになった。彼女が亡くなって以来、全くショートケーキを食べていなかったからだ。 「どうした?ショウ」 「え?」 「泣いている」  アルカシスに指摘され彰はツーっと涙を零した。それを皮切りに、次から次へと涙が止まらなくなる。  どうして、泣いているんだ、俺。 「あれ・・・どうして・・・っ」  涙は止まらない。どんどん溢れて来る。アルカシスは彰の背中を優しく摩りながら尋ねた。 「どうした?急に泣いて」 「実は・・・、っ」  彰は、人間界にいた頃の自らの境遇をアルカシスに話した。  昔から家族に疎まれ、友達もおらず虐められていた事。  でも唯一、祖母だけが自分の味方でいてくれて、彼女がよくショートケーキを買ってくれた事。  その祖母も5年前に亡くなった事。  亡くなった後は誰も自分を気にかけてくれる人はおらず、家族に勘当されて5年間一人で生きてきた事。  その間、会社でも邪険にされて誰も味方がいなかった事。  祖母が亡くなって以来、こうやって誰かに自らの境遇を話したのは、アルカシスが始めてだった。アルカシスは黙って彰の背中を摩りながら彼の話を聞いていた。彰が一通り話し終えると、彼は優しい表情を彰に向けながら言った。 「ショウは、寂しかったんだね」 「あっ・・・」  アルカシスは、ショートケーキを食べている彰を抱きしめた。そして、彰の耳元で囁いた。 「寂しかったんだね」 「うん・・・うん、寂しかった」 「辛かったね」 「うん・・・うん、辛かった」  アルカシスの言葉に反復して応えるとさらに涙が溢れてくる。  なんだろう。彼は自分をペットだと縛るのに、なぜか彼には自分の境遇を話せてしまう。彼が受け入れてくれるなんて保証も無いのに、なぜか彼に話すと安心できてしまう。  アルカシスの仕立てのいい白いスーツが彰の涙で滲んでいく。しかし彼は構う事なく、彰を抱きしめ続けた。彼の甘いムスクの香りが、彰の鼻腔を刺激して、全身の力を徐々に抜けていくのを感じ、彰はそのまま彼に委ねるように保たれかかる。 「ねぇ、ショウ。君と私は奴隷と主だ。過去君に何があったとしても、今君は私の奴隷。私の奴隷に堕ちた君には、私からの愛と、快適な暮らしをこれからも提供するよ」 「あ、愛を?」  愛?アルカシスからの、愛? 「勿論。君は私の性奴隷(ペット)だ。それだけでも私には君に愛を注ぐ理由になる。そして・・・」  アルカシスは彰の耳朶をペロリと舐めた。 「ーー楽しい、快楽もね」 「え?」  彰から離れたアルカシスの瞳が鋭く光る。彼の剣呑な緋色の瞳を見て、彰はゾクリと背筋を震わせた。  嫌な予感がする。  そう感じた彰は、彼から離れようとするが、それよりも早くアルカシスは彰の腕を掴んだ。 「逃がす気はないよ、ショウ。君が私に過去の境遇を話すなんて驚いたが、ならば尚の事私の性奴隷(ペット)として、快楽だけを求めて淫らに善がる雌犬に変えてあげる」

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