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第1話
「俺も恋してみたいなぁ」
部活の休憩時間。学校の裏庭でスマホを見ながらそんなことをぼやくと、たまたま近くにいたバスケ部の後輩の伊吹《いぶき》に訝しげな目で見られてしまった。
「友達に彼女が出来たんだって。せっかくの夏休みなのに彼女どころか好きな人もいないし、つまんないよな」
「好きな人もいないんですか?」
俺よりもやや高い位置から見下ろされ、うんと頷く。
早いやつだと中学から付き合ってたし、高校に入ってしばらくしたら彼女持ちもどんどん増えていったけど、高二になった今も俺には相手がいない。興味がないわけじゃないけど、女子とはほとんど話す機会もなく、ここまできてしまった。
「みんな楽しそうだし、俺もときめきたい」
友達もいるし、部活も楽しいし、今でもそこそこ満足してるんだけど、ときめきが足りないんだよなぁ。毎日ワクワクソワソワしてみたい。
ひとりごとのようにつぶやくと、少しだけ間があった後、伊吹と目が合った。
「そんなに恋がしたいなら、俺としてみますか?」
「は?」
何て? 思いのほか伊吹は真剣な表情をしていたけど、何を言っているのか理解出来なくて聞き返してしまった。
「恋がしたいなら、俺としてみますか?」
「何を」
「恋を」
「誰と誰が」
「俺と先輩が」
俺の間抜けな質問にも伊吹が一つ一つ答えてくれたおかげで、ようやく意味は分かった。けど、え? 伊吹と俺が恋? 何で?
相変わらず真剣な表情をしている伊吹の顔を見ると、まつ毛も長いし顔立ちも整っているし、いつも通り綺麗な顔をしている。背も高いし、モテそうだよな。
どう見ても相手に困ってそうには見えないのに、何だってこんなわけわからない……ああ、そうか。
「いきなり冗談きついって」
「はい?」
「それ面白くないぞ?」
「いや、」
冗談だとようやく分かって伊吹の腕をバシッと叩くと、伊吹は困惑したような顔をしている。
「なんだよ、その顔は。まさか本気とか言わないよな?」
「本気ですよ。俺が先輩を好きだってこと、とっくに気がついてると思ってたのに」
知りませんでした?と手を握られ、顔が熱くなったのが自分でも分かった。
嘘だろ……。伊吹が、俺を?
どうしよう、なんて答えよう。
「とっくに休憩終わってるぞ〜! さっさと戻ってこい!」
答えに困っているうちに体育館から先生の声が響き、とっさに伊吹の手を振り払う。
「ほ、ほら。休憩終わりだって。行かなきゃ」
「さっきのこと、考えておいてくださいね」
「さっきのことって……」
「付き合ってる人も好きな人もいないなら、考えてみるだけ考えてください」
「う、うん。分かった」
どうにか返事をすると、伊吹は納得したように頷いて体育館に戻っていく。
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