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第1話 きっかけ

   俺、一条翔(いちじょうかける)桐生瀬名(きりゅうせな)は、乳首を舐め合う関係だ。  昼休みの体育館、人気のないトイレの個室。  俺たちは、週に二、三回、学校でこそこそエロいことをしてる。  今も俺は、トイレのドアに瀬名を押しつけてシャツを捲り上げ、ツンと尖った乳首をねっとりと舐め回してるところだ。 「……ん、んっ……かける……バカっ……噛むなって……」 「いいじゃんこれくらい。……お前、噛まれるの好きだろ?」 「ァ、ぁんっ……ん、く……ッ」 「声、我慢できないの? このトイレ、声響くよ」 「分かってんなら……噛むとか……やめ、ぁ、んっ……ん、」  こういう関係が始まったのは中学三年のときだ。俺たちは今、高校二年生。ちなみにどっちも彼女なし。  中学の頃は、今よりずっと小柄で細っこかった瀬名だけど、高校に入ってから十五センチ近く背が伸びて、今は一七二センチというそこそこの背丈になった。ばっさり潔くカットされた薄茶色の短髪、耳にはピアス。瀬名の外見はそこそこにチャラい。  ちなみに俺は一七八センチで、瀬名よりは若干筋肉質だけど、まぁ似たような体型だ。  中学入学時から水泳部で鍛えていた成果か、瀬名の身体はいい感じに引き締まった細マッチョ。尖った美形だと学内で評判のイケメンが、今は自分から胸を突き出して、喘ぎ声を殺すために歯を食いしばり、快感に打ち震えている。 「……はぁっ……やべ……翔、オナっていい……?」 「いいよ。……俺にかけるなよ」 「だいじょうぶ……。ん、は、はぁ、あ……ん……ッ」 「わ……すっごいガチガチ。……俺がしよっか?」 「いい……お前にやらすと、変に焦らされるし、時間ないし……っ」  ベルトを緩めてズボンをずらし、瀬名は俺に乳首をぺろぺろされながら自分でペニスを扱き始めた。ドアに頭をもたせかけ、うっとりとろけるような表情でオナニーに耽る瀬名の姿は、やっぱりいつ見てもものすごく、イイ。 「……エロい顔。……ねぇ、俺もしていい?」 「……いいけど……俺、も、いきそ……」 「いいよ。瀬名のイキ顔、いいオカズになるし」 「っ……変態なこと言ってんじゃねーよ……ぁ、イキそ……ぁ、翔っ……噛んでっ……」 「ったく、変態はどっちだよ」  片方の乳首をきつく摘み上げ、もう片方の乳首を甘く噛むと、瀬名はぶるるっと全身を震わせて射精した。脱力した瀬名の身体を受け止めながら、俺は盛り上がった自分のペニスを瀬名の太ももに押し付ける。 「ねぇ、瀬名がして?」 「……っ……待てよ、力入んねー……」 「ほら、手、動かして」 「ったく……。てか、でかっ。舐めてるだけで、何でこうなるわけ?」 「んー、俺、舐められるより舐めてる方が興奮するみたいなんだよね」 「……へんなの」  瀬名はそう言って薄っすら笑うと、手を拭ってから俺のズボンの前を寛げた。俺に両手壁ドンされながら、慣れた手つきで俺のペニスを露出させ、巧みな手つきでそれを扱き始める。 「……はぁ……瀬名、上手い。自分でするより、断然イイ……」 「そりゃそうだろ。なぁ……翔のも舐めたいんだけど」 「……んー……いいけど。手短にな。時間ないし」 「黙ってろ」  そう言って、瀬名は俺のシャツのボタンを器用に外して、細い唇からいやらしく舌を伸ばして俺を煽った。 「……ん……っ」    唾液をたっぷり含ませた瀬名の舌が、俺の乳首に絡みつく。甘くて痺れるような快感と、瀬名の挑発的な目つきが、もう、たまらない。    舐めるのも舐められるのも、ほんとに最高……!  +  +  俺たちが出会ったのは中学一年生の春。  たまたま席が隣で、ゲームや音楽なんかの話が合って、何となく気が合った……ただ、それだけ。俺たちは、出会ってすぐにふわっと友達になった。  その頃は、ごくごく普通の中学生らしく、とりとめのない話題で盛り上がり、馬鹿を言い合いながら日々を過ごしていた。難しいことなんかこれっぽっちも考えてなくて、絵に描いたような馬鹿で単純な男子中学生生活を送ってたんだけど。  この関係の始まりは、中三の夏――。  夏休みが始まったばかりのある日、俺は瀬名の家に泊まりに行った。それって別に、いかがわしいことをするためじゃない。ただ、徹夜でネトゲしようぜっていう話になっただけで、その時は全然、そんな話じゃなかったんだけど……。  何気なく、瀬名のパソコンをいじっていた俺は、デスクトップの隅っこに、なにやら秘密めいたフォルダを見つけてしまった。ずらりと並んだアイコンの中、ただただ『無題』と書かれたそのフォルダは、なかなかどうして目をひくものがあり、俺はついついそれをクリック。  すると……。  出るわ出るわ。おっぱい画像。しかも、二次元。  はち切れそうな巨乳から、男の俺と変わんないじゃねーかってくらいの貧乳まで。  ロリ顏巨乳だったり、勝気な美人がちっぱいだったり。  劇画風の団地妻が毛むくじゃらのおっさんにおっぱい舐め回されて乱れまくってるものもあれば、魔物のぬれぬれの触手に乳首をこねくり回されてアンアン言ってるエロ漫画もあり……。  素晴らしく多種多様なおっぱい画像の数々……。  俺だって健全な中三だ。そんなもん見せられたら収まりがつかなくなるってもんだ。  身を乗り出してディスプレイをガン見しながら、むず痒くなってくる股間をもぞもぞしていたら、冷えたコーラを持って部屋に戻ってきた瀬名に、見つかった。 「うわぁああああああ!!!!! なに見てんの!? なに見てんだよぉぉぉ!!!」 「あっ、ご、ごめっ……!! つい、つい出来心で!!」  瀬名はバッとパソコンの前に回り込み、真っ赤になって俺を見下ろした。俺も負けず劣らず真っ赤だし、しかも股間は膨らんでるしで、何とも言えない気まずい雰囲気が俺たちの間に漂った。  瀬名は泣きそうな顔でぺたんと床にへたり込み、「何勝手に見てんだよばか!!」ともう一度わめいた。  俺は思わず椅子から降りて瀬名の前に座り込み、大慌てでフォローに回る。 「み、見たのは悪かった!! ごめん、本当にごめん!! でも、でもさ……別に、恥ずかしがることじゃないじゃん!! 俺だって、てか、男なら誰だって、エロ画像くらい見るだろ!?」 「……そりゃ、そーだけど」 「うん、見るだろ! 見る見る!!」 「うん……まぁ、そうだけどさぁ……俺の趣味、ばれちゃったじゃん……はぁ、死ぬほど恥ずかしい」  瀬名は羞恥のあまり潤んだ目で、俺をじろりと睨んできた。怒った顔だが、その表情はあまりにも哀れっぽいし、勝手にフォルダ開いて中身見ちゃったこともバツが悪くて、俺はどうしていいか分からないまま、こんなことを口走っていた。 「恥ずかしくねーよ!! お、おっぱいっていいよな、いいもんだよな! 男なら誰だって、おっぱい好きだもん! いい画像だった! 俺、すっげ萌えたもん!!」 「……そ、そーか? うん、そうだよな……おっぱいは夢の塊だ……」 「そ、そーだよ!! 俺はおっきくてもちっさくてもいいよ! なんつうかさ、ほら、ロマンだよね!! ロマン!」  俺の必死な励ましが功を奏したのか、瀬名はようやく表情を緩めて笑ってくれた。俺はほっとして、さらにこんなことを口走っていた。 「俺たちもさぁ、いつかはおっぱい舐めたりできるようになるのかなぁ? 彼女ができてさ、エッチの時とかさ」 「んー、彼女かぁ。できんのかなぁ……」 「瀬名は女子にモテるから大丈夫だって! 噂で聞いたことあるよ? お前に憧れてるって子、いっぱいいるじゃん!」 「でも……俺はまだ、生身の女子ってそういう風に見れねーもん。だってさぁ、漫画みたいに可愛くないじゃん。強いし、怖いし」 「うん……まぁ、それはいえてる……」 「翔は女友達いっぱいいるじゃん。お前の方が早く彼女できるに決まってるよ」 「え〜、あれはただの友達だもん。……はぁ。俺たちにも、無事に童貞卒業できる日が来るのかなぁ?」 「んー……」  俺たちはゲームそっちのけで、自分たちの性的な未来について想いを馳せた。  俺からしてみれば、瀬名はけっこうかっこいい部類の男子だ。色白でなよっちく見える見外見を気にしているけど、水泳部で活躍してるし、スポーツは何でもそつなくこなすし、けっこう頭もいいし、顔だって整ってる。だから女子たちが、「桐生くんってちょっといいよね……」なんてヒソヒソ遠巻きに憧れたりするんだ。実際は結構ガサツなんだけど。  対する俺は、未だにおでこと鼻先のニキビが治らないし、サッカーばっかりやってたから肌も真っ黒。小学生の頃から、女子から「猿」と呼ばれたりしてるようなアホガキだ。勉強は嫌いだし、女子に対してどういう気遣いをしたらいいのかわからないから、「デリカシーがない」とか「空気を読め」とかっていっつもいっつもどやされる。女ってのは面倒な生き物だ。  瀬名の方が、よっぽどよっぽど可愛く思える。口は悪いけど優しくていいやつだし、黙ってたらかわいいし、喋ってたら楽しいし、一緒にゲームもできるしスポーツもできるし、家族同士も仲がいい……。  と、俺がそんなことを考えていると、瀬名がモジモジしながらちらりちらりと俺を見ていることに気がついた。 「なに?」 「あのさ、翔さぁ……」 「ん? どーしたんだよ」 「……あの、俺……舐めてみたいんだ」 「なにを?」  俺が小首を傾げると、瀬名は顔を真っ赤にしながら、小さな声でこういった。 「……おっぱい」 「へ?」 「……あ、あの、あのさ。なんていうのかな、あの……そ、その時のためにさ……、練習、しとかねーとなと思って! お、俺たちもいつかはそういう日が来るんだろうしさ、そのとき失敗しないように、おっぱいの舐め方、練習しといたほうがいいんじゃねーかなって!!」  びっくりするぐらい早口で、瀬名がそんなことを言った。俺はただただぽかんとして、りんごみたいに真っ赤に染まった瀬名の顔を見ていることしかできなかったわけだけど……。ちょっと考えてみて、俺はこくりと頷いた。 「うん……一理ある」 「へっ?」 「うん……確かに、どんな感じなのか経験してみたいよな。俺ら男だけど……幼女レベルのおっぱいなら、あるし……あるのか?」  ぺた、と自分の胸元を押さえてみる。……ぺったんこだ。何の面白みもない……。  でも、おっぱいはなくとも乳首はある! 男にとっては全く無意味な二つの乳首だって、乳首は乳首だ!! おっぱいについてるのと一緒だ!!  それに、瀬名の言う通り、初めてのぺろぺろでがっつき過ぎたりするのは、男として恥ずかしい。俺は瀬名を見て、大きく頷いた。 「……うん、いいかも。練習しよっか」 「へ、マジでいいの?」 「いいよ。その代わり、俺も瀬名のおっぱい、舐めさせてよ」 「……お、おう。当然だ」 「よ、よし……じゃあ、いっちょやってみますか」 「おうっ!」  そして俺たちは、向かい合って力強く頷き合った。

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