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第1話 ①
ひやりとした空気に起こされる。音がみんな吸い込まれてしまったようなあの静けさを、僕は生涯忘れないだろう。
小学二年生の、冬休みのある日だった。
いつもと何かが違う。何かがある。目を覚ました瞬間に感じ取った僕は、漠然と高鳴る鼓動を一人飲み込んだ。
ゆっくりと身体を起こして床にそうっと足をつける。冷えきったフローリングで足の裏はぺたりと音をたてて、一歩、また一歩と、僕はうすぼんやりした窓に近づいた。
カーテンに手をかける。
勢いよく開け放って、僕は思わず息をのんだ。
一面の真っ白がきらきらと輝きを放つ。瞼を開けたばかりの町で、静かに、静かに、白い透明が羽を休めていた。
ああ、夜のうちに雪が降ったのだ――と、数秒してから僕は理解した。頭が追いつけないほど、その光景に心奪われていたのだ。
窓を開けると頬に冷たさが貼り付く。吸い込んだ空気は肺の奥まで澄み渡らせ、体が冬に浸かっていく感覚に陥った。
ふと、静寂を踏みしめる音が届いて僕は顔をあげた。
「!」
ああ、予感の正体はこれだったのだ。
僕は窓から身を乗り出す。そしてその音に気づいたかのようにまた、ハルもふと顔をあげた。丸く開いた目が細められ、雪がほどけるようにふわりと笑う。
「アオ」
ハルはひらひらと手を降って僕を呼んだ。その後ろには一本の道ができている。
歩いてきたのだ、ハルの家からここまでどれほどかかるか。想像するや否や僕は身を翻して、上着をひっつかんで部屋のドアを開けた。
両親を起こさないように注意して階段をおりる。玄関で袖を通しながら靴に足を突っ込んでドアを開けると、ハルが立っていた。
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