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第1話 ②

「来ちゃった」  いたずらが成功した時の笑顔。ハルの鼻は赤い。コートにマフラー、見慣れたはずの姿がいつもより明るく見えるのは、決して天気だけのせいではなかった。  僕より大きな手が差し出される。  きっと引力が働いている。僕の手は自然と引き寄せられ、ひんやりとしたハルのそれと重なった。  その瞬間に、優しく雪の中へと案内される。靴底が真っ白を踏んで、見渡した景色は部屋からよりもずっと輝いていた。 「……すごい」  漏れた声と一緒に、息が生まれて消える。  ハルが満面の笑みを見せた。 「雪だるま、作ろうよ」  僕がうなずくと、ハルはやったと歌うように続けた。  その顔はやっぱり三つも上には見えなくて、けれど僕を見ると自然伏し目がちになる表情も、学校では一緒にいられないことも、僕の知らない友だちがいることも、確実な差を表していた。  ハルが新しい雪へと一歩ふみ出す。ぎゅ、と固められた雪がハルの足跡を作って、僕はハルが歩いた道を見た。  ――僕より大きな足跡。  こんなところでさえ、僕とハルは違う。  僕とハルが一緒に歩いても同じ足跡はできない。こんなにそばにいるのに、形も歩幅も違う、てんでばらばらの跡。  増えていくハルの足跡。僕はその上に足を乗せてみた。  ハルが足を置いたところ。ハルの身体があった場所。そうっと、ゆっくり、一つ、二つ。  いつもより遠い一歩をふみ出す。音はしない。足が沈む感覚もない。けれど振り返ると、それまでとは少し違う不格好な足跡ができていた。

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