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第1話

透き通った一面のスカイブルー。 体が宙を舞った時に最後に見た、色のついた世界だった。 飛揚(ひよう)が大学の帰り、交通事故に合い失明したのは一年半ほど前の話だ。 毎夜、事故の瞬間の夢を見る。 新緑が映える街路樹、点滅する青信号。アルバイトであったモデルの撮影を終え、そのまま買い取ったブランドの服を纏い、グレーと白のストライプのうえを軽快に歩く自分に、真っ赤なスポーツカーが突っ込んできて、カラフルな世界はそこで終わる。 それなりに、周囲に人が集まるタイプであったと思う。 勉強は得意ではなかったが、スポーツ全般は持ち前の器用さでちょっと真剣に取り組めば、そこそこの成績を残すことができた。 平均より高い身長と、父親がスペイン人のハーフで堀が深い顔は評判が良く、中学も高校も女は途切れたことはない。 上京し大学に入ってからはさらに垢抜け、アルバイトで雑誌モデルをし、将来は芸能関係の仕事を視野に入れるくらいには自分に自信があった。 苦労を知らない華々しい人生を、何気なく生きていた。 しかし失明したとなると、その後も同じ人生とはいかない。 それまでの環境はがらりと変わり、周囲から人は去った。事故直後は献身的だった女も、次第に寄りつかなくなった。 何でも人より上手くやっていた筈なのに、普通の生活すらままならない現実にプライドが傷ついた。 トイレすらまともに出来ないのだ。日常生活を一人で送る事さえままならない。 大学を退学した飛揚が一人暮らしをやめなかったのは、ただの我が儘だ。 元の生活など何一つ出来ない自分に残された、ただ1つの変わらない事は、この部屋に住むことだったから。 一人暮らしにはヘルパーがついた。 人の手を借りたくなかったが、両親より赤の他人の方がマシだと思えた。 顔を合わせる度に涙を流す母親より、事務的な方が気持ちが楽だ。 夢の余韻を引きずり暗闇でぼーっとしていると、突然響いたチャイムに体をびくつかせた。 ベッドサイドに置かれた時計を指でなぞる。 指先が感じた時間はとっくに昼前だ。 ヘルパーの紫吹(しぶき)まひるだ。 ベッドからのっそりと起き上がると、壁を伝いながら玄関まで出迎えた。

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