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第2話
「おはようございます。紫吹 です。巡回に参りました」
自分より一オクターブ高い声。一般的な女よりは低めでハスキーだ。
落ち着いた喋り方がけっこう気に入っている。
1つ前のヘルパーは中年の男で、人生論だとか口煩くてかなわなかった。その前の担当は、やたらと気を遣いすぎるタイプで、こっちが気疲れするような奴だった。
中年男はもっと外にでろとか、仕事をするために訓練をするべきだとか、ああしろこうしろと考えを押しつける。
恩着せがましいそいつにうんざりして、変えて貰ったのがまひるだ。
まひるがここに通い始めてから半年ほど経つ。
「瑞原 さん。部屋がしけっぽいです。
今日は布団を干しましょうか。
それから、郵便物が溜まっていましたので、お持ちしました。急ぎのものはなさそうですが、掃除が終わりましたら読みますね」
返事をする前にぐう、とお腹がなった。
「食事まだなんですか? ちゃんと規則正しい生活をするって、前回約束したじゃないですか」
「準備が億劫なんだもん。包丁もこえーし、火事になるかもしんねーし」
「凝った物を作れとは言ってません。お父様が買って下さった音声ガイド付きの炊飯器で米を炊いて、納豆と卵とふりかけをかけて食べればいいんですよ。栄養ばっちりです」
「納豆と卵とふりかけぇ? 合うのそれ」
「試して見てください。嵌まりますよ」
まひるの空気が和らいだ気がして、目覚めから緊張しっぱなしだった肩の力を抜いた。
「なぁ、今笑ってる?」
「そうですね、気分は悪くないので、瑞原さんがそう思うなら笑ってるんじゃないですか」
「ねぇ、自分で作っても美味くないし、なんか作ってよ」
「それでは、サポートではなく家政婦ですね」
「大して変わらないよ。いいじゃん、たまには甘やかしてくれたって」
目が見えなくなってから、声色で人の感情を読み取るのが癖になった。
前のヘルパーは、言うことを聞かない自分にイライラしていたのがわかったし、友達は腫れ物に触るようならまだマシで、障害者の扱いなど面倒くさい、という雰囲気がありありと感じられた。
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