2 / 5

第2話

「おはようございます。紫吹(しぶき)です。巡回に参りました」 自分より一オクターブ高い声。一般的な女よりは低めでハスキーだ。 落ち着いた喋り方がけっこう気に入っている。 1つ前のヘルパーは中年の男で、人生論だとか口煩くてかなわなかった。その前の担当は、やたらと気を遣いすぎるタイプで、こっちが気疲れするような奴だった。 中年男はもっと外にでろとか、仕事をするために訓練をするべきだとか、ああしろこうしろと考えを押しつける。 恩着せがましいそいつにうんざりして、変えて貰ったのがまひるだ。 まひるがここに通い始めてから半年ほど経つ。 「瑞原(みずはら)さん。部屋がしけっぽいです。 今日は布団を干しましょうか。 それから、郵便物が溜まっていましたので、お持ちしました。急ぎのものはなさそうですが、掃除が終わりましたら読みますね」 返事をする前にぐう、とお腹がなった。 「食事まだなんですか? ちゃんと規則正しい生活をするって、前回約束したじゃないですか」 「準備が億劫なんだもん。包丁もこえーし、火事になるかもしんねーし」 「凝った物を作れとは言ってません。お父様が買って下さった音声ガイド付きの炊飯器で米を炊いて、納豆と卵とふりかけをかけて食べればいいんですよ。栄養ばっちりです」 「納豆と卵とふりかけぇ? 合うのそれ」 「試して見てください。嵌まりますよ」 まひるの空気が和らいだ気がして、目覚めから緊張しっぱなしだった肩の力を抜いた。 「なぁ、今笑ってる?」 「そうですね、気分は悪くないので、瑞原さんがそう思うなら笑ってるんじゃないですか」 「ねぇ、自分で作っても美味くないし、なんか作ってよ」 「それでは、サポートではなく家政婦ですね」 「大して変わらないよ。いいじゃん、たまには甘やかしてくれたって」 目が見えなくなってから、声色で人の感情を読み取るのが癖になった。 前のヘルパーは、言うことを聞かない自分にイライラしていたのがわかったし、友達は腫れ物に触るようならまだマシで、障害者の扱いなど面倒くさい、という雰囲気がありありと感じられた。

ともだちにシェアしよう!