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第5話
「やっべ、どうやって片付けよう」
一人になったら乾いた笑いが出た。
料理が出来上がっているのかも、何がどこにあるのかも、何もわからなかった。床を触ってみると、何かが零れている。
「熱っ」
(みそ汁……?)
まだ、熱を持っていた。まひるは火傷をしなかっただろうか。
フキンをだして手探りで拭いていると、踏んでしまったのか膝に浸みてきた。
「くっそ…」
何で急にこんなことをしたのか分からない。
温もりがほしいと思ったのは本当だ。
まひるに甘えたくなった。
もしかしたら、受け止めて貰えるかもって思った。
でも普通に気持ちを伝えたって、俺なんか相手にされるわけ無い。
昔と同じノリでしか女を誘えなかったなんて、ダサすぎる。
自信がなくて、気持ちを誤魔化してしまった結果がこれだ。
もうまひるはここには来ないかも。
苦々しい気持ちで片付けに四苦八苦していると、また玄関に馴染んだ気配が現れた。
「まひる…?」
声をかけているのに、相手は話さない。
「っなぁ、誰? まひるじゃないの?」
情けない声が出た。
気配も匂いもまひるなのに、返事を貰えないことに異様に焦った。聞くことが出来なかったら何も分からない。
「悪かったって、もうふざけないから」
謝っているのに、まひるは返事をせずに黙々と片付けだけをし、作業を終わらせると早口に告げた。
「お味噌汁とおにぎり、きんぴら、卵焼きとお浸しを作りました。残りはタッパーに入ってます。マスキングの印は、きんぴらがバツで……」
「なあ、聞いてくれって!」
腕を掴み大きな声で遮ると、体がびくっと揺れた。
「悪かった。まひるを気にしてるのは本当だけど、自分に自信もてなくて誤魔化した。もう絶対変なことしない。だから、ヘルパー辞めないでくれよ。俺、気が休まるのお前しか……」
今話さなかったら、もう二度と会えない気がした。このまま飛揚の担当を止めてしまうかもしれない。
必死になって訴えてると、まひるが感情を爆発させた。
「俺は男だ!!」
「ーーは?」
「背も低いし声も高いから勘違いしてるみたいだけど……っお、男なんだって……!」
「いつも、わたしって」
「仕事で俺とか言う奴いるわけないだろっ……!!」
叫びながらボカスカなぐられた。泣いているらしく鼻声で、鼻を啜る音もする。
「あっ、イテッ。やめろって……マジ?」
(嘘だろ)
いくら目が見えないからって、性別を間違えるのか。
そんなにも、いつも会話をしている相手のことをわかっていなかったのか。
情けなさに力が抜ける。
女と間違えたのは彼の地雷だったようで、まひるはグシグシと泣いていた。
それを可愛いだなんて感じる自分は、どこか変だろうか。
腕にすっぽりとおさまってしまうまひるに、妙にドギマギとする。
まひるが男とわかっても、自分の気持ちになんら変化は起きなかった。
「なぁ…それでも好きって言ったら、困る?」
「え?」
むせび泣いていたまひるが、ピタッと泣き止む。
「男でも女でもどんな容姿でも構わない。そんな風に惹かれたのはまひるだけだ。心を好きになったのは初めてなんだよ」
受け身ばかりのつき合いしかしてこなかった為か、人生初の告白はぎこちない。
柄にもなく頬に熱を感じて、初恋かもしれない、なんて思った。
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