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第2話

ある日、上司に呼ばれて会議室に行くと、若い男が一人椅子に座っていた。 「こちらは?」 「これからウチと懇意にしていただく会社の次期社長さんだ。君に案内を頼みたいと言われてね。すまないがよろしく頼むよ。」 上司はそれだけ言うと、そそくさと部屋から出て行った。 「どうぞ。」 訳も分からずに突っ立っている俺に、男が茶を勧めてくる。 「どうも。」 俯いたままで一口飲んで、テーブルに置くとクスッと聞こえたような気がした。 「よろしくお願いします。」 いきなり顔の下に差し出された手。 一瞬の躊躇の後、その手を握ろうとするとぐっと引っ張るように強く握られて顔を見上げた。 「……っきみ!?」 「ようやく見てくれた。今日は気分悪くないですか?」 そこでニヤニヤと笑っていたのは、あの合コンで行った店のあの店員。 「次期社長って、君が?!」 「失礼な人だなぁ。まぁ、あの時の俺じゃあね。」 「だって、あの店で店員というかバイトしていただろう?」 「あれは親父への反抗期の色々。家を飛び出してはみたものの、染み付いた生活水準ってやつが俺を大人にしたってわけ。」 「ただ単に白旗振ったって事だろう?」 「本っ当に失礼な人だよな……あんた。」 くくっと笑って俺の顔を覗き込んでくる。 そこから数歩後ずさろうとするが、掴まれた手のせいで離れられない。 「失礼ついでに手も離してくれないか?」 「あぁ、他人とは一線引きたいタイプなんだって?」 「なっ!」 いきなり核心に触れられて、ぐっと息が詰まった。 「人を好きになったことがない。恋愛に興味がない、でしょ?」 「何で、それを……」 言ってはいない事を一度しか会っていないこの男が知っていることに、恐怖を覚えて顔が青ざめていく。 「あぁ、怖がらないでよ。俺の会社、色々と手を出しててさ。調べようと思えばいくらでも調べられるんだ……だから今は俺、あんたのことを何でも知ってるよ。」 強く握られた手を振り解こうにも体に力が入らない。 「何だ……これ?」 体が熱く、下半身が痛いほどに反応している。 我慢できずに床にしゃがみ込んだ俺を、つないだ手を手繰り寄せるように自分の元に引っ張ると椅子に座った膝の上に俺を乗せて抱きしめた。 「やっと捕まえた!俺もさ、人に興味がない人間だったんだ。だけどあんたと話してから、あんたの事ばかり考えるようになっててさ。そしたら初めてここが反応して、あんたのことを思って抜いた。それを何回も続けている内に、本物のあんたを欲しいって強く願うようになったんだ。」 「俺は……」 息も荒く、頭もぼーっとしてきて考えが纏まらない。それでも触れられているところから感じる他人の熱に身震いする。 「離し……てくれ。」 嫌がるように身を捩る俺を、テーブルの上に寝かせて自身もギシっと音を立てながらゆっくりとテーブルに登ってくると、俺のシャツのボタンを外し始めた。 「いや……だ。」 遠のきそうになる意識を必死で掴み続け男から逃げようとするが、男の手はそれを難なく掻い潜って俺の着ているものを一枚ずつ剥いでいく。 「俺さ、あんたが初恋だって気がついたんだ。あんたもさ、人を好きになったことがないんだよな?だからこれで俺を好きにさせてあげる。大丈夫。毒なんかじゃないよ。ただ、この行為の後で俺を好きになるだけ。大好きだよ。」 「やめ……てく……れ。」 俺は人を好きになりたくないんだ。俺の嫌な面、醜い面を晒したくないんだ。嫌だ!俺の初恋を勝手に作り上げないでくれ!! 「ねぇ、俺のこと、好き?」 「あぁ、俺の初恋だからな。」 満足そうに俺を抱きしめ、唇を合わせる。 ぞくっと震える体に疑問を感じつつも、俺は初恋の男に抱かれて静かに目を閉じた。

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