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六話
俺は多分、この日常に慣れはじめていた
だから、学校でもアイツの好き勝手を受け入れてしまった部分はある
暗い夜道なら大丈夫かと思って手を握ったり、保健室でも向こうのイチャイチャしたい要望を呑んだり呑まなかったりも何度かあった
極力バレない範囲だとアイツにも言い聞かせているし
けれど、まさかこんな事になるまで気が緩んでいたなんて思いもしない失態だ
「つっきしろ~、オハー!」
「………朝から騒がしいんだけど」
「こーゆんは明るい言うんやっ」
「……………はぁ」
「月城は相変わらず冷たいなぁ~、オレのマイハートにヒビ入るわぁ」
ふざけたような馬鹿っぽいソイツは、嘘臭い芝居をしながらチラチラと俺の様子を窺っていて非常にムカつく
殴ってやりたいくらいソイツの顔が気に食わない俺は、呆れてまた溜め息が自然と口から零れる
「どうしてお前は俺に構うんだよ」
「えぇ~?せやから、前にもゆーたやん。ダチになろーて♪」
「…そん時にお断りした筈だけど?」
これでもかというように引きながら冷めた目で見やるが効果がないのか、はたまた図太い精神だからかソイツには利かなかった
そもそも何故、こんな茶髪でチャラチャラした大阪弁の男に絡まれているかと問えば…答えは簡単だ
今から一週間前のあの夜の出来事である
保健室から雅と一緒に出て車まで手を繋いで帰った時、俺達は周りに誰も居ないと思い込んでいた
だが、次の日に学校に行けば見知らぬチャラ男に話し掛けられた
『なんや朝から見かけへん思たら、今頃ご出勤ですかぁ』
『……アンタ、誰?』
家に着くと直ぐに襲われて激しく何回もヤられたせいで、昼過ぎまで寝ていた俺が学校に着くといきなり玄関口で絡まれ
『はぁ?誰やて??……クラスメートの顔も名前も知らんのんかい、月城君?』
挙げ句には、薄っぺらい作り笑顔で当たり前のように振る舞って来るモノだから俺は無性に反吐が出そうな気分になった
面白くもないのに笑ったり、周りに合わせて自分を偽ったり、嫌われたくないからって中途半端な事をしたり、俺はそういうのが大嫌いで
だから、つい口が滑ったんだと思う
『…偽っても誰もお前自身なんかみねぇよ。むしろ相手に悪いと思わないワケ?』
ましてや他人にそんな事を言った事は今までなかったし、嫌いな奴だと分かれば直ぐに無視してその場から離れるのが俺だった
なのに何故か……ソイツの心が”本当の自分を見て欲しい“と聞こえた気がして”偽るのが辛い“とすら聞こえそうな気がして、見ていられなかったかも知れない
偽った仮面を被ったってソイツの本心は直ぐに分かった
…俺も、雅に出逢うまでそうだったから
でもまぁ、今は後悔しまくってるけど
「なぁー!オレの話聞いてるかぁ?」
「…ウザイ。消えろ馬鹿男」
「モォー、んな事言うたかて…ホンマは構ってほしぃくせにー」
図星を突かれたからもう話掛ける事はないだろうと思ったのに、このチャラ男は何故か俺に接触し続けている
俺が強く突き放せば良い話なんだが、何せコイツには弱みを握られているせいでそうもいかなかった
案の定、俺は数日前に突き放してやろうと試みようとした
しかし、返って来たのは思わぬ言葉で…
『っいい加減にしろよ!俺に構うな!!』
『………ホンマにええんか?』
『はぁ?良いに決まって───』
『ほな、月城の秘密を周りにゆうたろーかなぁ』
『…はっ?秘密??』
真剣な顔をしたかと思えば、急にニヤついて不気味な表情をしたソイツは俺に近付いて来て小声で囁く
『───アンタ、なんで俺が話し掛けたか分かっとらんよーやけど…オレは見たんやで?アンタと北条センセーが手ぇ繋いで帰ってる所を』
それを聞かされて絶句した俺から離れるソイツは、またあの不気味な微笑みを浮かべる
内心の俺は、見られたという焦りと雅に迷惑が掛かるんじゃないかという不安に押しつぶされそうになっていた
『ハハッ、ナンちゅう顔してんねん。せっかくのベッピン顔が台無しやで?』
『……何が目的だ』
やっと絞り出した声は、普段の数倍低くくなっていて俺自身も驚くくらいに
警戒心剥き出しでソイツを睨むが、ソイツはまるで新しい玩具を見つけたような無邪気な顔だった
『目的?…そーやなぁ…あ、じゃあ俺とダチになってくれたら黙っといてやるわ』
あまりにバレバレの考えるフリをしてからくだらない提案をしてくるソイツに、俺は無性に腹が立ったのを覚えている
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