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七話

  『──断る』 俺の意外な言葉でソイツの顔は不思議そうな表情へと変わった 『へっ?なんでや、バラされてしもうてええんか?』 『どうせハッタリだ。それに、ダチになりたいって言う奴が脅してくんのはどう考えても可笑しいだろ』 『いやいや、ハッタリやのーてやな…てか、さっき認めたやん!?』 『知らね。忘れた』 『え、えぇー・・・;;』 『ダチが欲しいなら他当たれ』 この行動で本当にバラされる可能性はあったが、冷静に考えて証拠らしい証拠をコイツが持っているとも限らない それに、あんなに暗かったんだ 写真を撮っていたとしても真っ暗で俺と雅だという証拠にはならない 教師か生徒すら分からないだろう 危うく自分で墓穴を掘る所だった事に気付いて俺は早くコイツから離れようとした 『ま、待てや!頼むからダチになろーや、な!?』 …が、腕を掴まれてコイツに捕まった 切羽詰まったように慌ててうろたえるソイツに俺は言葉が詰まった 『秘密は誰にも言わんから!な?な?』 『…意味分かんねー。さっきまでの勢いはどこいったんだよお前』 『そっちが言うたんやろ!偽っても誰もみぃひんて…。せやから、ホンマのオレ自身を見つけてくれた月城と仲よーなりたいんやっ』 コイツのこの瞳を見て、俺はある確信をする ”面倒くさい奴に捕まった“と はじめて見た相手を親にする雛鳥のような感覚でソイツは俺に執着するだろう そんな瞳をしていた 何かを諦めたように俺は溜め息混じりに勝手にしれと言うと、ソイツが花を咲かせたようにパァッと明るくなって最初に見たあの偽りじゃない笑顔で言う 『オレ、柑棟 珱斗やゆーねん。宜しくやっ』 太陽みたいに眩しいソイツの笑い方は、正直言って嫌いじゃなかった 偽物よりマシという意味で けれど、同時に思うのは…俺とは正反対で少し居心地が悪いなという事だった 「──月城?どないしたん、ボォッとして」 「別に。水を得た魚みたいにイキイキしてるお前がいると疲れると思っただけ」 「うっわぁー・・・またそんな酷い事ばっかゆうて……けど、ちょっと顔色悪いな。保健室行くか?」 ここ数日で分かった事が幾つかある コイツ…柑棟はウザくて喧しいが、見た目より馬鹿じゃないという事と頑固な割に強制してしつこくして来ない事だ 少しでも(俺が)体調が悪いと直ぐに気付くし、お節介で親切だったりする …世間ではこれを”オカン“と呼ぶらしい 「保健室はいい。どうせ今行きづらいし…」 「あー・・・ソレは、ホンマ悪い事したと思とるて…;;」 「マジお前のせい」 教室で次の授業の準備をしながら俺は呆れて溜め息を吐く 柑棟が俺の周りをウロチョロとしつこく付きまとってくるようになってから、学校で雅に会う機会が減った 俺自身は別に構わなかったし、柑棟のせいで雅に構う元気すらなかった訳で なのに帰ったら帰ったで、ヤる事はヤる俺もどうかと思うが……いや、アイツが会えなかった分だとか言ってシたがってたからもあるけど それでヤった後にアイツは何故会いに来れないのかを一昨日の夜にしつこく聞いてきたもんだから、疲れてたのあるが俺は適当にあしらってしまった そのせいで雅とは今喧嘩中…というより向こうがただ拗ねているだけなんだが 「…なんなら、オレから説明しよか?」 「それだけは止めろマジで。ややこしくなんだろ」 「ほなかてやなぁ…」 世話焼きでお節介なオカン体質の柑棟は自分のせいだと責任を感じているらしく、昨日も謝りに行くと言って保健室に行きそうになったのを俺は何度か止めた 半分は柑棟のせいだろうが、もう半分は俺のせいでもある だから別に柑棟が謝る必要も説明する必要もない というより、雅はああ見えて嫉妬深くて少し面倒くさいから第三者がでしゃばれば多分…悪くなる一方だ ならば俺が解決すれば良いという決断になった訳だが (…昨日の事があるしなぁ…) もう何度目かも分からない溜め息を俺はまた自然と口から零していた 外はあんなに晴れているというのに、俺の心は曇ったようなモヤモヤがへばりついている こんな気持ちは、今までなかった

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