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十三話
歩き疲れていたのか、俺は家の中に入ると着替えずにベッドに横たわっていつの間にか眠っていた
・・・───っまに──おる───つきっ──
・・・──だい──たぶん──ね───し──
遠くからは誰かの話をする声と、鍵をガチャガチャとする音が聞こえて俺は眠い目を擦りながら起きる
時刻を見ると十九時過ぎで、雅が帰ってくる時間だった
「……やべっ、制服のままで寝てた…」
いつもシワになるからと雅は制服のままで寝ると口うるさく言う
俺は急いでシャツだけでもと思ってボタンを外そうとしたが、寝ていたせいかそれとも焦っていたからかは分からないが指が上手く動かなかった
扉がガチャリと開いた音がして、俺は第三ボタンまで外したのをそのままに諦めて雅にして貰おうと玄関までトボトボ歩く
「みやびー、ワリィ制服のまま寝て…………たっ!?」
玄関が開いたのと同時に視線を上げると、そこには居る筈のない奴が驚いた顔で固まっていて俺もビックリして固まった
次第にブルブルと震えるソイツは右手をグーにして俺の頭を殴るなり叫びだす
「~~~っのドアホー!!なんちゅー格好してんねん!」
「ってー!グーで殴る事ねぇだろーがっ」
「あるわっ、ちょーあるわ!フェロモンまき散らかすお前が悪い!」
「はぁ?!意味分かんない。そもそもなんでここにいんのっ」
「ハッ……せやった!こんな事してる場合ちゃうわ」
結構ガチで殴られた俺は半泣き状態で睨み付けながら、ここに居る疑問を投げ掛けると柑棟はオーバーリアクションをして本来の目的に戻した
「スマンかった!」
「なにが?」
「昼間の事、悪かったと思とる。オレが言い過ぎたわ…周りがどう言おうがオレは月城の味方やって分かって欲しぃだけやってん」
「………別に、必要ないけど」
「それでもっ!オレは何があっっても月城の味方やから!!」
柑棟は真剣な顔をして、真っ直ぐに俺の顔を見てそう言った
真っ直ぐで何も知らない綺麗な目……俺にはないモノ
(やめてくれ…そんな目で俺をみるなっ)
どうしてコイツはいつも、俺が触れられたくないモノに容赦なく触れてくるのだろう
胸が苦しくなる、呼吸がしにくくなる、涙が出そうになる
「なんで、どうして、お前は離れないなんて言えるんだ……全部を知ったら、お前だってきっと!」
「……なんや、オレがお前の過去を知って怖じ気づいて離れる思っとるんか」
「っっ!」
心の中に仕舞っていた筈の気持ちが声に出てしまっていたらしく、柑棟の言葉で気付いて口を塞ぐが既に遅かった
それでも、これ以上は言うまいと玄関の扉を閉めようとしたがあえなく柑棟の手でそれは叶わなかった
「離せっ」
「嫌や。…なぁ、聞いてくれ。オレの過去」
「はっ?」
「だって、月城にだけ言わすのもフェアちゃうやん?せやからさ、オレの過去を話すから聞いてや」
「な、んで…俺がっ」
嫌だと思ってまた扉を閉めようとした時、俺は扉を押さえる柑棟の手に目がいく
柑棟の手が微かに震えてるのを、見てしまって俺はハッとして柑棟の顔を見る
顔を見た途端に俺は気付いた
「もし、これを聞いて月城がそれでも話したぁない思たら…無理強いはせん。でも…これからもオレとダチのままで居てくれ」
コイツも、俺と同じで怖いんだと
失う事が、傷付く事が、過去を話して相手が離れて行ってしまう事が、怖くて怖くて貯まらないんだと
(…あぁ、コイツも……俺も怖いのか。やっと気付いた…俺はコイツが離れて行くのが怖いんだ)
ストンと何かがハマるように落ちて、埋まらなかったものが埋まった気がした
「分かった」
「ほ、ホンマかっ!?」
「ああ。なんか馬鹿らしくなったし…話してやる」
「え、ええええっええんか?!」
「”え“が多い。それと煩い。近所迷惑だから」
あまりに煩いから耳を塞ぐと柑棟は何故か喜んだ顔をして、いつもの月城やぁといいながら抱き付いてくる
だが、いつから居たのか雅が怖い顔で現れて柑棟の肩に手を置くと急に痛いと喚き離れた
「…誰が抱き締めていいって言ったのかな?」
「あだだだっ!スマンスマンっせやから離して!」
「ちゃんと謝らないと離さないよ」
「スンマセンっした!もぉしませんからっ!!」
「ホント、君は油断ならないね」
かなり痛いのか、次第に柑棟の目尻には涙が出てきて俺は溜め息を吐く
雅はヤレヤレというような仕草をして手を離すと、俺の方に来てギュッと抱き締めてくる
多分、消毒とか上書きとかでの行動だろうと俺は素直にされるままでいた
だって断れば雅がふてくされるのは目に見えているし
「…つーか、いつから居たの雅」
「んー?最初からいたよ」
「あ、そう…;;」
最初から見てたのかと俺はちょっとした呆れと羞恥に襲われたが、そこまで怒ってない雅に俺は何も言うまいと口を閉ざした
「……柑棟、」
「ん?」
「とりあえず、中入れば?」
まだ少し痛いのか、柑棟は肩を撫でている
だが、俺の言葉にまたあの笑顔を向けた
「おうっ」
あぁ、やっぱりコイツの笑顔は嫌いじゃない
太陽みたいに眩しくて、キラキラと輝くこの笑顔が……どうかこれを聞いても見られるように
密かにそんな願いをする俺の心は、誰にも知られないだろう
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