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十二話ー珱斗Sibeー
「・・・────えっ、帰った?」
「おー、なんか体調悪いとか?言って早退してたぜー」
教室に戻ったオレは月城の姿が見えず、気になってクラスメートに訪ねたらそんな言葉が聞こえて来て……ほんの一瞬頭が真っ白になった気がした
『……お前に…お前に何が分かんのっ?俺の何を分かった気でいんだよ!』
『っ月城…?』
『知らねークセに。周りが軽蔑すんのくらい俺だって解ってるさ…けど、そんなのどうでもいいって思わせてくれたのは……雅だけなんだよっ』
あの時の月城は、いつも見てきたような呆れた顔や怒った顔でもなくて……初めて見た顔で
”苦しくて仕方がない“みたいな辛そうな顔だった
月城のあんな顔は初めて目にしたが、そういうのをオレは知っている
”孤独感“と”追い詰められた感じ“に満ちたようなものを
前にも見た事があるんだ
(…ちゃんと話さな……やっとできたんやっ。本当のダチになれそうな奴が…)
あの時あの瞬間に、オレは間違った選択をしたと思った
苦しくて辛くて……息が詰まりそうな、涙を流しそうなあんな顔を、オレはさせたかった訳じゃない
相談しあって、一緒に馬鹿やって笑ったり、一緒に悩んだり、喧嘩をしたり、一緒に楽しい事を共通したり……オレはそういう関係になりたかった
(また、失うのは嫌や…)
脳裏に浮かぶのは、今とは違うオレ自身で絶望感に押し潰されてる姿
もうあんな惨めな自分にはなりたくなくて、高校ではちゃんとしようと一生懸命に頑張って来た
それなのに、上手くいかなくて疲れて違う意味で惨めになっていたオレに”間違い“を教えてくれたのは月城だけ
月城だけがオレを見てくれた
月城といる時は、本当の自分で居られる
でもやっぱり、月城以外で自分を出すのが怖くて
オレは弱くて情けない自分が嫌いだったのに、月城に出会ってからは少しだけ自分を好きになれた
そんな存在を、オレは手放したくない
手放したくないと思った瞬間には、考えるより先に行動していたオレは今一番に頼りになる奴の所まで一気に走り出した
「えっ、ちょ!柑棟!?」
クラスメートが急に走り出すオレに驚くが、オレは全く聞こえていなかった
走って走って、廊下で走るなとどっかの教師が怒鳴る声なんて気にしないくらい全力で走って
「…はぁ…はぁっ……デジャヴ、過ぎるわっ」
確か前にも走ってアイツの所に来た事があって、オレは若干呆れてくる
月城を救えるのも、理解してるのも、支えてるのも、全部全部アイツだと思い知らされるのはいつもオレの方だった
乱れた呼吸を整えて、オレは殴られる覚悟をする
月城を傷付けたらアイツは例え親しい人でも怒り狂うだろう
…そういう奴だって事はもう、この二週間で理解した
恐る恐るゆっくりに扉を開けると、北条は怪訝そうな顔でこっちを見てくる
「なに?」
「っ北条、頼む!月城の家教えてくれっ」
「……はっ?」
ついさっきまで言い合っていた相手に、いきなり頼み事をされて頭も下げられている北条は多分だが何言ってんだコイツと思っているだろう
それでもオレは必死に頭を下げた
「さっきは悪かった!けど、ダチを思っての事や」
「…………」
「でもオレは月城を傷付けてもーた。ちゃんと謝りたいし、支えてやりたいんやっ」
「……傷付けたのに、隆樹の側に居させると思ってるの」
「っ!!それでもっ…ええ。アイツが笑って幸せなら、オレはそれでええんや」
普段は聞かない低い声で、北条が怒ってるのは伝わってくる
それでも頭を下げ続けていると、頭上から盛大過ぎる溜め息と呆れ果てたような声がした
「…君って本当に馬鹿だよね」
「なっ!オレは真剣にっ」
「多分君は、周りからの批判とかを気にして隆樹との間を邪魔したんでしょ?でも、隆樹にとっても僕にとっても……それは余計なお世話だよ」
「っお前、知ってて…?」
「そりゃあね。隆樹から君を引き離そうと思えば簡単な話を僕はあえてしなかった訳だし」
北条は何もかもお見通しのように言うが、オレは頭がついていかなかった
だって、引き離そうと思えば出来た筈のオレをそうしなかったなんて……
「えっ、まさかオレに惚れて…」
「ないから。変な事言わないでキモイ」
「キモっ!?ゆーただけやろ!!オレかて嫌やわっ」
試しに言っただけの言葉に思いっきり引く北条は冷めた目でオレを侮辱する
本気で月城はコイツのどこを好きなのか理解できないと内心オレは思った
でもやっぱり理由が分からない
「…隆樹が、僕以外と居て優しい顔になるのってめったにないんだよね。笑ったり怒ったりも僕以外に見せなかったんだ」
「……月城が?確かに、教室ではニコリともせんけど…」
「だから、僕は君を引き離そうとしなかった。隆樹が心を許した相手だからね」
北条の言葉でオレはやっと気付いた気がした
オレは北条ぐらいじゃなくても、月城の中ではちゃんと想われていたんだと
他の誰かと一緒に居るのと同じくらいに、月城はオレに心を許してくれてた
どうしようもないくらい今、目尻が熱くなってくるのが分かる
けど、それがなんなのか分かってるオレは北条に見られないように俯いて腕で顔を覆った
「…っなんや、それ……貴重なモン…オレ、見逃してたん…?」
「だね」
「クッソ腹立つわ~・・・」
頑張って我慢をしようとしても、涙は止めどなく溢れて止まらない
ましてや、そんな表情を北条だけが知ってるのが狡くて羨ましかった
オレも、月城の色々な顔を見たいし知りたい
例えどんな酷い過去だって、月城がダチで居てくれるなら…オレは絶対に嫌いになったりはしない
伝えようちゃんと
オレの思ってる事全部…
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