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十一話

  『…お前だって…本当の俺を知ったら嫌でも軽蔑するさ』 あれから、俺は逃げるように屋上を離れた 教室に着けば勿論の事、授業中で入って来た俺にクラスが静まり返って担当の教師も一瞬言葉を失っている たが、そんなのお構い無しに俺は自分の席にいくと対して入っていないスクールバックを掴むと肩に掛けて体調が悪いから早退するとだけ言って教室からも逃げるように去った 今は授業を受ける気分でも、柑棟に会える気分でも、雅にだって会いたくない気分で こんな気持ちになるは久し振りだった (……忘れてたのに…) 柑棟が言ってたのはよく分かる 周りがどうでもいいって言っても、やっぱり気になるのは変わらなくて不安になるのも変わらない それでも俺は、雅の側に居たい 安心するし、こんな俺を受け止めてくれたし、汚いなんて忘れるくらい愛してくれてる だけどやっぱり”汚れてる“のに変わりなくて 友達も恋人も作らなかったのは、そういう意味もあって作らない なのに、柑棟は俺達の関係を知っても友達でいようとしてくれて…一方的だけど友達と思ってくれてる けれどそれは、昔の俺を知らないからで 色んな男と好きでもなく身体を重ねて小遣い稼ぎをしていたと知れば、柑棟だってきっと周りと同じように軽蔑するだろう あの太陽みたいな笑顔も、見られなくなる (……胸が痛い…傷ついてんのか?俺が、柑棟に軽蔑されるの) 考え事をしながら歩いていたらいつの間にか学校から出てて雅の家に着いていた でも、何を思ったのか 俺は家に入らなかったんだ 否、入れないと思った 今は……こんな気持ちで家に入っても罪悪感や不安が増だけだと感じたから 行く場所を失った俺は、どこか暇潰しが出来そうな場所を探した しかし、昼過ぎに学生が外を無闇にウロウロ出来ないのが事実で……思いついたのは一つだけ (………久々に行くか…) 昼間だからバーはまだ開店してない だけどマスターとは知り合いだし、事情も分かってるから話したらどうにかなる気がした 「確か、昼間はカフェしてんだっけ?」 俺は携帯を取り出してマスターに電話をすると、少しして眠そうな声が聞こえてくる 《…ふぁ~…はぃ、ドナタですか…》 「寝ぼけてんの?ちゃんと名前見て電話とれよ」 《っ隆樹君!?珍しいね。どうした?》 眠気が吹っ飛んだのかいつものマスターの声になると、電話越しからガタガタと何かが落ちるような音がして俺は微かに気持ちが落ち着く気分になった 「マスターこそどしたの?凄い音した」 《あ、ははは…ちょっと躓いただけだよ。って話変えないで;;》 「ハハッ、相変わらずのドジだよなマスターって」 マスターはおっちょこちょいでドジだけど、こんな俺でも優しく迎えてくれた人だ とても感謝してる 四十くるオッサンだけど、笑った顔は子供じみた笑い方でバーに来る奴はそんなマスターが可愛く見えているらしい 勿論、俺も嫌いじゃない 《ちょっと隆樹君?大人をからかわないでくれないかな》 「ごめんごめん。……なぁ、今からそっち行っていい?どうせ店にいるだろ」 《それは…構わないけど、いいの?オレんとこ来て。あの人となんかあった??》 心配そうに聞くマスターは、本当に良い人だと思う あの頃だって俺から雅の相談をした時に色々アドバイス的な事をしてくれたし 本当に感謝してる 「違う。アイツは今も俺にゾッコンだわ」 俺がそういうと、電話越しから呆れたような笑い声が聞こえて俺は自分で言った言葉に今更ながら恥ずかしさを感じた 「…笑うなよっ」 《いや、だって君からそんな言葉が出てくるとは思わなかったから》 「………だよな。俺もビックリ」 《でしよ?なら…オレんとこじゃなくて、あの人の所に行くべきだよ》 「はっ?」 《男同士って周りからあんまり良いように見られないから、色々苦労するだろうけど…そんな時こそ恋人と一緒に居ないと不安で押しつぶされるんだよ》 「……………」 いつもマスターは悟ったように図星の事を言う どこかで見てるんじゃないかってくらい、俺の悩み事を分かってて予知したようなアドバイスをくれる だから、あの頃も結構救われてた時もあって もしも父親がマスターならいいのにと思ってしまう 「…マスター、」 《ん?》 「マスターって本当に良い人だよな。なんで恋人居ないの?」 《んー・・・知りたい?》 「えっ、なにそれ。まさか誰かいんの!?」 勿体ぶる言葉が聞こえて俺は驚きのあまりつい声が大きくなった 《さて、じゃあもう切るよ?店の準備があるから》 「ちょっ、勿体ぶる事言っといて切る気かよ?!」 《また店に顔見せにきな。気が向いたら、話してあげるよ》 それじゃと言ってマスターは戸惑いなくプツリと電話を切る なんだかんだで実はマスターの事は謎で、秘密主義者だから今度絶対に聞こう あの感じだと問い詰めたら渋々白状してくれそうだし でも、お陰で少し気が紛れた気がする 携帯の時計を見ると今丁度十六時になった所で、俺はバーに向かい掛けた足を引っ込めてそのまま家に帰った

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