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十話

  雅と仲直りをしてから、俺達は今まで通りに戻った あのモヤモヤもなくなったし ただ、一つだけ変わった事を除いて… 「隆樹。はい、あーん♪」 「阿呆か!そんなんさせへんぞエロ教師!!」 「君には言ってないよ」 「わぁーとるわ!鳥肌立つ事言わんといてくれっ」 「なら、早く消えてくれない?僕らは今忙しいんだから」 雅の言葉にワナワナと苛立ちに満ちて震える柑棟に俺は呆れた顔でそれを見送る あれからというもの、何故かお昼休みの時も柑棟が付いて来て雅にちょっかいを出す 撒いた時もあったが、なにせ行く場所がバレている為にそれも断念してこうして一緒に食べる事になっている訳だが… 「………煩い。二人共いい加減にしろよ」 「~~~ほなかて、コイツがっ」 「ほら、隆樹もこう言ってるんだから。早く出て行ってよ」 また訳の分からない張り合いをする二人に俺は頭を抱えたくなるのを耐えながら、さっさと昼飯を食べ終わろうと目の前の弁当だけに集中する (もう無視だ無視…構ってられるか) 二人が仲良く(?)なったのは別に良いが、こうも板挟みされると怒りを通り越して呆れてくる 未だバチバチと俺の頭上で燃えている二人なんかほっといて最後の玉子焼きを平らげた俺は、すぐさま保健室から逃げ出した ここ最近では、いつもがこのパターンになりつつある 「…はぁ、変なのに好かれる呪いでも掛かってんのかな俺…」 後頭部を掻きながら溜め息を零していると、後ろからパタパタと走ってくる足音が蝉の鳴き声と同じくらい煩く聞こえてきた 「ちょー待ってや月城ぉー。置いてかんといてやぁ」 「へぇ、今回は早い段階で気付いたな。エライエライ」 「ウグッ…超棒読みやんけ…;;」 俺の言葉にグサッときたのか、変なリアクションをする柑棟は申し訳なさそうにして謝ってくる 雅も家に帰れば謝罪してくるのだが、明日になればまた同じ事の繰り返しだということは身を持って理解させられた だって既に二週間目になろうとしている訳だし 「……なぁ、お前マジでなんなの?何か企んでんじゃねぇだろーな」 「ちゃうわっ!オレはただっ……」 そこまで言うと柑棟は何故か言葉を詰まらせて、苦しそうな顔で舌打ちを零すといきなり深呼吸を始めた 「ナニしてんの;;」 「スゥーハァー・・・月城、今からチョイサボれるか?」 「…………分かった。その代わりちゃんと言えよ」 あまりに盛大にするもんだから若干引いたが、その後とは思えないくらいの真剣な顔で真っ直ぐ俺を見る柑棟に、何かあるのだろうと分かって言い分を大人しく承諾する さっき見た、柑棟の表情は今まで見たことがなかったのもあって一瞬驚いた 思い詰めたようなあんな顔、今までしなかったのに だから気になってってのもある 柑棟の後をついて行くと予鈴がなって周りの騒がしかった声も静まっていて、そんな中で階段を登っていくと屋上の扉が見えた どうやら屋上で話すらしい まぁ確かに、屋上はサボるのに持って来いな場所だし誰も近寄らないからヤバい話なら尚更打って付けではある 扉を開けて出て行く柑棟に俺も後ろからついて出た 「……で、サボらせた理由は?」 まだ七月に入ったばかりなのに太陽は眩しくて暑く日陰に入って居ないと焼けそうで、蝉の鳴き声も遠くから聞こえてくる 「月城ってな、昼休みになると大抵あのセンセーんとこ行くやろ?」 「そりゃあね、雅が一緒に食いたいって言うし」 「……二人っきりは避けなアカンで」 どうしてそんな事を聞くんだろうと不思議に思っていると、振り返った柑棟は深刻そうな顔で俺に言った 正直に言って、俺は言葉を詰まらせて何も言えずにただ柑棟の言葉に耳を傾けている 何でとかどうしてだとか、言いたい筈なのに言葉に出来ない俺はどうかしてしまったのだろうか 暑さにやられたのかとさえ考えていると、柑棟はまた口を開いた 「解ってる筈やで、あのセンセーはあくまでセンセーや。教師が生徒と親密な関係になるんは周りが許さへん……怪しまれたら終いや」 「………解ってる。平気だって、俺も雅もちゃんと理解して───」 「してへんから俺が居るんやっ」 ガッシリと二の腕を掴まれて押し殺したような声を出す柑棟に、俺はピクリと肩を揺らして驚いて目を見開く 「…………」 「…なぁ、月城。俺は別に二人が付き合ってるとかは気にせんし、軽蔑や引いたりせんよ。けどな?周りは分からんやろ」 「……お前に…お前に何が分かんのっ?俺の何を分かった気でいんだよ!」 「っ月城…?」 「知らねークセに。周りが軽蔑すんのくらい俺だって解ってるさ…けど、そんなのどうでもいいって思わせてくれたのは……雅だけなんだよっ」 きっと柑棟は悪くない ただ、心配してくれてるだけだって分かってる 頭では分かってる筈なのに、俺は苛立ちで柑棟を突き飛ばした 柑棟は知らない 俺が過去でどんな事をしていたのか 金の為にどんだけ汚してきたかなんて コイツは俺が嫌な事ばかりする やっと、前に進めると思ったのにコイツは俺を追い詰める 「…お前だって…本当の俺を知ったら嫌でも軽蔑するさ」 尻餅を付いた柑棟の顔は、唖然としていて俺を見ていた その姿を、俺はどんな顔で見ていたんだろう 少なくとも柑棟を傷付けたのは明白だ

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