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九話ー雅Sibeー

  煙草を吸い終わったのと同時に予鈴がなり、僕も保健室の仕事に取りかかった 丁度、四時間目の授業が始まる お昼はここに呼んで話し合おう それから仲直りをして抱こう 昨日から隆樹不足で、仕事もしたくないくらいやる気が出ない そんな事を考えて、スマホを取り出した時だった バタバタと誰かの走っている足音が聞こえて、扉をガラガラと壊れそうな勢いで開ける音がした 「っ!?」 「はぁはぁ……っきっつ…はぁ…」 そこに居たのは息を切らしたあの生徒が汗を拭いながら保健室に入って来る姿 僕は訳が分からず戸惑っていると、彼は視線を僕に向けてキっと睨み付けてきた 「……アンタぁ…めめっちい事でなにしてんや。そなに月城が誰かと居るんが嫌なんかっ」 「…君には分からないよ」 急に何かと思えば、彼は怖い顔でそんな事を言ってくる けれど、そもそもは彼が隆樹に近付かなければこんな筈にはならなかったのだと僕は収まった筈の怒りをまたフツフツと沸き上がらせた 「阿呆抜かせ!……月城が倒れた」 「っ!?どうして…」 「アンタがっ!アンタが、月城を不安にさせたからやろ!!」 胸ぐらを掴まれて悔しそうに憎んだような瞳を向けられ、彼からは怒り以上のモノが見えたような気がする 彼が言った言葉に、僕は言い返す事すら出来ずにただそこに立っていた それに痺れを切らした彼は、舌打ちをしてから僕の服を離すと背中を向けてチラリと僕の方をまた睨む 「…アイツは、アンタの事を誰よりも思とる。自分で気付いてないだけでな。なのに、なんでアンタがそんな月城を追い詰めるような事しとんや」 「…………っ」 「はぁー・・・まったく、コイツのどこがええか分からんわ」 呆れたように長い溜め息を吐くと、彼はまたこちらに向き扉に寄りかかった 「月城、アンタの所行きづらいゆーて朝から体調悪かったの我慢してたんや」 「えっ…」 「今、体育館の舞台そでに寝かしてあるから。……迎えに行けば?」 「─────有り難う」 「…フンッ、オレは月城の為にしただけや。ダチなら当然」 お礼を言うと僕はすぐさま隆樹の居る体育館へと向かう 彼…柑棟君に借りが出来たと内心思いながら 隆樹を見つけた僕は、人の目もくれずに抱きかかえて保健室に運ぶとゆっくりベッドに降ろした 額には汗がビッシリで、夏のせいじゃない異常さが見受けられる きっと僕のせいだろう 寝不足と軽いストレスで倒れたらしい隆樹の様子から僕は自分を責めた 「…っゴメンね」 側に椅子を持って座り込んだ僕には、罪悪感と後悔が押し寄せる 昨日、あんな冷たい態度をとってしまったから隆樹の異変に気付けなかった 子供じみた事をするべきではなかったと反省する 「僕はただ、隆樹だけ居ればいいと思っただけなんだ…ゴメン」 謝罪してもしきれない程、僕は隆樹を傷付けてしまった 僕さえ拗ねなければ……こんな事にはならなかったかもしれない そう思わずにはいられなかった 「………ばぁか…アンタだけが悪いなんて、誰が言ったんだよ…」 「っ隆樹?身体はもう平気?痛い所は?吐き気や頭痛は??」 「ちょっ…そんな質問攻めすんなって。大丈夫だからさ」 目が覚めた隆樹の姿を見て、ホッとするや否や心配であれこれ聞くと苦笑いをしながら優しく手を握ってくる隆樹に僕もぎこちなく笑ってゴメンと伝える あぁ、僕は本当に隆樹が居ないと駄目なんだと改めて確信した 「…ゴメンね、隆樹」 「もういいって。さっきも謝ってたろ」 「違うよ…昨日、あんな冷たい態度とっちゃってゴメンって意味」 「………知ってる。聞いてた」 「本当は直ぐに謝りたかった。もう気にしないって…言えば良かったのに、僕はっ」 悔いても悔やみきれない思いに潰されそうになる僕に、隆樹はどう思っただろう 呆れただろうか、嫌いになっただろうか 僕から離れて行くだろうか 「そーだな。…さすがに昨日のは堪えた」 「っ…!」 「前の俺なら今頃、アンタとの縁は切れてるな」 「………本当にゴメン」 「けど、それは前の俺で”今“の俺じゃない。ったく、本当面倒くさいよなアンタって」 もう駄目だと思った僕に、隆樹は優しい声で安心させるように抱き締めてくれた 一週間前の時と立場逆転している 横になっている隆樹に抱き締められているから、体制はキツいけどそんなの今の僕にはどうでも良かった 初めて、隆樹から触れられたから 今までずっと僕から触れて誘っていたから気付かなかったけれど、考えてみれば隆樹からというのはなかった気がする 「…俺も、ゴメン。雅に甘えてた」 「っううん、良いんだよ…。好き。大好き。愛してる」 「クッ…アハハ……いつものアンタに戻ったな」 嬉しそうに笑う隆樹も、久し振りに見る 僕にとっての隆樹は世界そのもの 隆樹さえ居れば僕はその世界で生きていける 例えどんな試練があろうと、僕達ならきっと乗り越えられる 抱き締められた身体をもっと密着したくて僕も隆樹をギュッと抱き締めた それから、お互いの顔を見て可笑しそうにまた笑って どちらとも言えないタイミングで甘過ぎるキスをした これで仲直り、だよね 「……愛してる。隆樹の全部を心から」 きっと今までにないくらい優しい表情になっている だって、心がこんなに満たされてるから あの不安でたまらなかった気持ちはいつの間にかもうなくなった

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