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EP.37

 逸る気持ちをどうにか抑えつけシャワーを浴び、海が作った食事を腹いっぱいに食べてベッドに誘われる。  元からかもしれないが、海は本当に行為に依存してしまったようだ。お互いに好き合っているとわかっているからか、あんなに拒んでいたのが嘘のように泉帆に触れられたいと強請る。  それを宥めるように止め、泉帆は買ってきたものを袋から取り出した。 「はさみ?」 「ニッパーだよ。金属とか硬いものを切るはさみみたいなもの。近くに工業大学があるからみたいだけど、まさか売ってるとは思わなかった」 「それ、何に使うの?」  コンビニにしては多少値が張る金額だったが、今自分が思っていることをするには安い買い物。泉帆は封を開け、準備を済ませ海に向き直った。 「これならそのピアスも外せるんじゃないかなと思って。断面を削るのは流石に難しいから抜くときはちょっと痛いだろうけど、少しだけ我慢してもらえる?」 「……考えたこともなかった」  一生外せないままだと思っていたのか、海は驚きの表情を浮かべていた。  他人の所有物であるこの証は一生外せないもので、泉帆にどれだけ愛されても他の男の陰は消えない。ずっと海はそう思っていたようだ。 「海くんにはもう俺だけだって思ってほしいから、俺が外したい。いいかな?」 「……うん。わかった」  お兄ちゃんのものじゃなくなりたい。そう言って泣いていたのはきっとこのピアスが呪縛になっているから。このピアスがきっかけで、忘れられない人になってしまっているからだ。  だから、海を愛している自分が外すことで意味があるのだと思う。泉帆は海に横になってもらい、その身体に跨るようにして服を捲り上げピアスに触れた。  半田で雑につけられたのとは逆の、ただの棒とストッパーのような玉の部分。そちらに刃を当て、皮膚に触れないよう慎重に挟んでいく。 「んっ……」  小さいピアスを胸の尖りごと摘んでいるから、海は反応してしまうようだ。それさえ開発したのは自分じゃない、このピアスの元々の持ち主なのかと考えるだけで泉帆はまた仄暗い考えを持ちそうになってしまう。怒り任せになってしまえば海が怪我を負ってしまうからと、泉帆は努めて冷静を装い、ゆっくりと右手で掴むグリップに力を込めた。  ぱちん、と軽快な音を立て、金属の玉は簡単に胸の上を転がりシーツへと落ちた。  バリを削ることはできないから、なるべく傷をつけないようにこれまた慎重にゆっくりと引き抜いていく。  外れたピアスは本当に小さなものだった。泉帆は落ちたものと合わせて掌に収め、海に見せた。 「ほら、簡単に取れた」 「……うん」 「嬉しくなかった?」 「ううん、嬉しい。でも、……こんな簡単に外れるものに、おれ何年苦しんでたんだろって」  乳首にピアスを開けているなんてこと誰かに知られたら好奇の目に晒されかねない。だからずっと隠してきた。プールや海にも行けないし、人前で薄着になることだってできない。  ずっと、こんなものに海は囚われてきた。 「もう片方も取っちゃおうか。これ、捨てていい?」 「みずくんが捨てたいんでしょ?」 「そうだね。海くんが残したいって言ったら我慢するけど」 「言わないよ。みずくん、おれのおっぱい揉む度に微妙な顔してたじゃん。おれ好きな人にそんな顔させたくないもん、だから残したくない」 「有難う」  好きな子の身体に触れる度に他の男の影がちらつくことにいい感情を持っていなかったのがどうやら顔にも出ていたらしい。海に許可を得たから泉帆は何の躊躇いもなく切り落としたピアスをゴミ箱に放り投げた。  そしてもう片方も同じように切り落とし、捨てる。ニッパーはベッドのヘッドボードに置き、海を改めて見下ろした。 「これで、もうあの男のこと考えることもなくなるね」 「そうなればいいなぁ。じゃあ、みずくんだけのおっぱい触る?」  むに、と両腕で寄せて谷間を作りながら聞かれるそれに生唾を飲む。あの下品な飾りがなくなったことで柔らかいその先端の摘みは肉の間に埋もれていた。  海の言葉には返さないまま、爪で掻き、指先で捏ねるように穿り出す。 「えっち。ちゃんと触って。指じゃなくてべろでして、ちゅうちゅう吸ってもいいよ?」 「……う、うん」 「ふふ、みずくんほんと、赤ちゃんみたい」  言われたがままに全てして、体勢を変える余裕もなく限界まで猫背になり舌を使い吸ってみれば海にはすぐに笑われた。  止められるわけがないだろう、こんな誘惑。

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