1 / 6

呪詛

「ゆーきちゃん..」 「どうも、細貝くん」 笑顔を貼り付けたような、心から笑っているような顔。 そして久しぶりの再会。それはそれは嫌な再会の仕方で。 舞台の顔合わせが終わり裏口の近くに悠来に呼び出された圭。恭しく名前を呼ばれて背筋が震えた。 「..ゆーきちゃん、どうして」 俺を選んだの?なんてお互いにわかりきっていることは聞けなかった。聞きたくなかった。 マネージャーの「四道は是非細貝がいいって悠来くんが!」という喜色満面が頭から離れない。連続での仕事なんてありがたいことをくれた悠来に圭のマネージャーは頭が上がらないだろう。 「なあ圭、俺の事まだ好きだろ?」 俺の右ポケットから迷いもなくタバコを出して、左ポッケからもライターを取り出す。1本抜き取って口にくわえるとそっと火をつけた。 この人はいつもそうやって人の心を惑わせる。俺がゆーきちゃんから離れられないように片足でも掴んでおくのがゆーきちゃんのやり方だ。 「......俺はもう..」 「そんな野暮なこと言うなよ、わかってんだろ?」 とことん圭を追い詰める悠来。沼にハマったようにここから動けない圭。少しずつタバコの煙は換気扇に吸い込まれていく。 ここで俺が声を出したら終わってしまう。全てゆーきちゃんに喰われ尽くしてしまう。圭は声を出さないように喉に力を入れる。唾液が少し苦く感じた。 「圭、すげえ寂しかったよ俺」 俺のタバコを肺いっぱいに詰め込むように味わうようにゆっくりと吸う。煙は換気扇にさっきよりも多く吸い込まれていた。 悠来の甘く低い声が圭の鼓膜を刺激して喉が震える。稽古場でかいた汗とは違う汗が背中をなぞる。圭はもう限界だった。 「...圭、ん」 圭が1歩歩けばくわえられるようにタバコを向ける悠来。タバコは半分よりも短くなっており、手が大きい悠来には少し持ちづらそうだった。 圭は俯いていた顔をあげる。その瞬間悠来と目が合う。その目に惹かれるように圭は1歩踏み出した。

ともだちにシェアしよう!