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第1話
「なぁ、嬢ちゃん達俺らと遊ばね?」
ある日の大通り。金曜の夜ということもあり、それはそれはおめかしした女の子をよく見かける。
「..っあ!...逃げんなよ〜.....」
「..はい負け〜、ほら言った、絶対引っかかんないって言ったじゃん」
ため息をつきながら、畜生〜と小さくボヤく。たまたま見かけた、ショーウィンドウに気だるげに背もたれる女の子。白のロングワンピース、ストレートの黒のロングヘアー。俺のクソタイプ。そう、俺たちはその女の子を釣れるか賭けていたのだ。
若干お酒が入っていることもあり、俺は自信満々で望んだつもりだった。
「今日は謙の奢りってことで!」
「ハイハイ..、まぁいいんだけどよ〜、あそこほんとやっすいし」
満面の笑みを俺に向ける雷。先程いつものクラブで奢ることを宣言していたのだ。
「どうする?アイツら誘う?」
「...嫌がらせかよ」
「ふふ、謙も好きじゃん」
「...いいけどよ〜!!」
「じゃあ呼びま〜す」
財布的には嫌がらせだが、精神的にはめちゃくちゃご褒美なメンバーを呼ぼうとする雷。
あれ?俺お前には賭け負けたからお前には奢るのわかるけど、アイツらは違くね..?まぁいいか、楽しいし。
「ほんと鬼畜になったなぁ、雷」
歩きながら、そう切り出す。少し頭痛がする。
「そ〜かな?」
「そ〜だよ、まぁ俺がそうさせた気がするからいいけどよぉ」
なんて誰に向けてるのか分からないマウント。雷はずっと歩きスマホをしながら笑う。
「アハハ、じゃあその責任で7人分頑張って!」
「ちくしょ〜」
雷に1本取られた気がして、2度目のボヤきは大きく声が出た。
...
「..あれ、ムネとケイとカズは?」
先に着いていた蓮と爽太のそばにいき、相変わらずスマホをいじる雷に問う。
「みんなバイトだってよ、カズは終わり次第来るって」
「それ何時?」
「12時」
「それ絶対俺の家来るつもりだろ」
「まぁムネ居るしね」
「おい」
いつもの流れとわかっていても突っ込まずにはいられない。俺たちの部屋より和哉の部屋の方は近いのに。
「とりあえず飲も〜ぜ」
「おう、カンパーイ」
カシャーンと乾いた音がなり、皆が一斉に1口酒を飲む。俺と蓮はビール。雷はカルピスサワー。爽太は珍しくレモンサワー。
「...ほんとここ安いよなぁ〜」
「それな」
「..何の秘密言った?」
「絶対言わねえだろそれ」
「じゃあ、何系かだけ!」
「...やだわ、お前すぐ言うじゃん」
「言わねえって!」
ここに来て何千回とやった会話。一向に言い合う気は無いが少し腹を探りあってる感じがして毎度雷は少し嫌な顔をする。
「蓮とか何言ったか、気になるんだよ〜」
「確かに、なんて言ったの?」
無言で手元のグラスを見つめる蓮。
「...いや、やめとく今危うく言いそうになったわ」
「え〜言えよ〜、何系?何系?」
「....人間系?」
蓮の発言に一斉に3人が吹き出す。
「そんなのだいたいだろ〜!..ふははっ..!」
「確かに..」
蓮は恥ずかしそうに再び手元のグラスに顔を向けた。
「和哉居たらちょっと当てられてただろうな」
「それな、アイツすぐそういうの当ててくるしな」
「こわいよな、アイツ」
「アイツこそ、何言ったか気になるよな」
「なんかあいつ、結構酷いことやったとか聞いたことあるんだよな」
嫌な流れが来たと雷は顔を顰めるが、それを止める術を知らないので黙るしか無かった。
「え〜、なに?」
「中学いじめてたらし〜よ」
「...へぇ〜」
爽太の発言に場が静まり返る。雷はなにか注文して止めればよかったとこのタイミングで思いついてモヤモヤする。爽太自身も言わなきゃよかったかもとグラスを軽く呷った。
「...これうめ〜な、なんだっけこれ」
謙が空気を察してたまに飲んでいる酒の名前を問い始める。グラスに当たる氷が妙に響いた。
「謙が飲んでるのなんだっけ.....、あったあった、これじゃない?」
「うわ、これ絶対通販ポチるわ」
「すぐ謙ポチるもんな〜」
「この前酔った拍子にプチレモンポチってた」
「マジで?フハッハッ、それでどうしたのそれ」
「..翌日気づいて通販拒否ったわ」
「そ〜なるよなぁ〜、ほんと笑うそれ」
こういう時に謙の大事さを皆思い知る。雷はどこ知らぬ顔で酒を飲む蓮を少し睨んだ。
「っ...!?」
ガシャン。背後で大きな音が鳴る。
「...まぁたカジノのとこかよ」
振り返らずとも全員どこから鳴っているかなんてわかっていた。音にびっくりした耳を引っ張る。
「ほんとうっせぇよな、毎度毎度」
「ふは、俺らも言えたもんじゃねえけどな」
「最近なんであんなカジノがうるさいか知ってる?」
珍しく饒舌に喋り出す蓮。どこかの席でグラスの割れた音がする。誰かが秘密を賭ける声が大きく聞こえる。嫌な予感がして、グラスを見つめて興味ないふりをした。
「なに?」
誰かが店員を呼ぶ声がする。
「俺らさ、ここ入る時秘密言ったじゃん」
誰かが叫ぶ声が聞こえる。
「あれを賭けてんだって」
瞬間、世界が静かになった気がした。
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