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第3話

 三ヶ月後ーー  あの日、敦は自分の前に現れる事はなかった。大生は部下の前という事も忘れ、みっともなく泣いた。敦が来ない事は分かってはいたが、来なかった事実をすぐに受け入れる事ができずにいた。  敦にしてみたら、仕事も婚約者も全て失う事になるのだ。まともな人間ならば、自分を選ぶはずがないのは当然だ。  だが今はーー  敦は自分の腕の中で穏やかに寝息を立てている。  確かにあの日、敦は来なかった。だが一ヶ月経った頃、突然会社に現れた。  敦は大生が言った通り、全てを捨ててきた。彼女との婚約破棄、彼女と同じ会社であった為、会社も退職した。その辺に関する事を敦はそれ以上詳しく話してはくれなかった。きっと、大変な思いをしたはずだ。  敦は全てのけじめをつけ、自分の元に来た。  一方で大生は先日、妻との離婚が正式に成立した。比較的、円満離婚であると言えた。  敦は、小さなスポーツバッグを一つだけ抱え、自分の前に現れた。 『俺は全部捨ててきた。もう俺には大生しかいないから、別れるって言われたら死ぬしかない』  敦のその言葉に堪らず涙が流れ、敦を強く抱きしめた。  そして現在ーー  共に人生を生きていくと決めた二人の左手の薬指には、揃いの指輪があった。  腕の中で眠る敦は小さく一つ身悶えると、そっと目を開けた。 「おはよう、大生」 「おはよう」  そう言って大生は敦にキスを落とした。  敦は二度、大生を好きになった。  初恋は実らない、と言うけれど、初恋の相手をもう一度好きになったらどうなるのだろう。それでも初恋というのか。それとも二度目の初恋という事になるのだろうか。  大生のキスを受けながら、敦はそんな事を思ったーー。

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