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第2話
朝目覚めると、すでに大生はいなかった。置き手紙があり、また今夜来る、そう書かれていた。
その日、敦は仕事が手につかなかった。
大生は今更なぜあんな事を言ったのか。ずっと抱えていた思いを吐き出して、過去を精算したかったのかもしれない。
今夜、これ以上一体何を話すというのだ。
二日酔いの頭を抱え出社すると、婚約者である栞が顔を出した。
「二日酔いの顔してる」
彼女はそう笑うと、コーヒーを机に置いた。
「ありがとう」
栞の顔をまともに見る事ができず、今この瞬間、初めて同姓愛者である罪悪感に苛 まれた。
栞は何か話していたが今夜、大生と会う事ばかり頭に過ぎり、何を話していたのか覚えてはいなかった。
アパートに帰ると、大生が部屋の前でタバコを咥え立っていた。
「おかえり」
「ああ……」
鍵を開け中に入ると、大生はリビングの床に直に座ったが落ち着かない様子だ。
コーヒーを淹れ、大生と向き合う。
「敦……俺、離婚する事に決めたよ」
唐突な大生の言葉に動きが止める。
「な、んで……」
「元々上手くはいってなかった。子供ができないんだ。子供ができない原因は俺だ。そのせいで、ギクシャクしちまってさ」
かける言葉がなかった。
「今時、子供がいない夫婦だっている。離婚する必要はないじゃないか?」
「俺がもう無理だ。敦に再会して、もう俺の気持ちは敦にしか向いてない」
大生は敦に睨むような視線を向けると、
「好きだ、敦」
瞬間、蓋をしていた大生への想いが蓋を突き破り、一気溢れでてきたのを感じた。
「おまえに婚約者がいるのは分かってる。だから、敦とどうこうなりたいわけじゃない。もう、俺は自分に嘘をついて生きて行くのは嫌なんだ」
ポロポロと涙が無意識に溢れてくる。
大生を忘れるのに十年、懸命にその芽が出ないように十年かけて必死に抑え込んできた。けれど、再会してたった二日で大生への想いの芽は再び芽吹いてしまった。
「俺も……俺も、好きだ……ずっと大生が忘れられなかった」
そう自然と言葉が溢れた。
「敦……」
大生に抱きしめられ、敦もそれに応えるように大生を強く抱きしめた。互いに目が合うと、どちらともなく唇を重ねた。
ベッドで微睡んでいると、
「明後日、十時の新幹線で東京に帰る。敦、もし……」
大生は愛おしむように、敦の髪を撫でると、
「もし、おまえが全てを投げ打って、俺と人生を共にしてくれる覚悟があったら、来て欲しい」
その言葉に胸が締め付けられ、心がバラバラになり壊れそうになる。
敦は何も言わず、大生の腕の中でただ小さく首を振った。
おそらく大生は自分が行けないと分かっていて、そう言っている。好きな男の為に今ある全てのものを投げ打つには、余りにも代償は大き過ぎた。
大生と再び別れ、また忘れるのに十年を費やすのか。きっと、自分はこの先、大生を想いながら死んでいくのだろう。
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