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「俺の初恋は君なんだよ。奏汰(そうた)」  清潔なベッドの上で、隣に座る裕貴(ゆうき)さんが唐突に切り出した。 「初恋は叶わない、だなんて、よく言うだろ? だけど、俺は叶ったんだ。多分、高校まで恋しなかったお陰かな」  照れたようにはにかむ姿に、僕はつい見とれて――それから慌てて、ポケットからボイスレコーダーを取り出した。 「また記録するのか? なんだか、恥ずかしいなぁ」 「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」  僕はそう言って録音ボタンを押すと、「ほら、続きが聞きたい」と先を促す。  裕貴さんが苦笑しながらも、わざとらしく咳払いをした。それから懐かしそうな目をして、口を開く。 「覚えてるだろ? 初めて出会った時のこと。奏汰がまだ中学生で、俺は高校生でさぁ」 「六年も前のこと、覚えてないよ」  僕が困ったように笑うと、裕貴さんが「あんな衝撃的な出来事をか?」と残念そうに眉を下げる。精悍な顔立ちに少しだけ、幼さが滲む。 「あの日は凄い雨で、俺は学校から家まで傘も差さずに走っていたんだ。誰かが俺の傘を持って帰っちゃってさ。だけど、どうしても見たいドラマの再放送があって――」  それから、ジェネレーションギャップかもと言いながら、ドラマのタイトルを口にする。  三つしか歳が変わらないのだから、さすがに僕だってそのタイトルは知っている。天然だなぁと思いながら、僕は「知ってるよ」とだけ返す。 「それで、そのドラマ見たさにあの暴風の中を走ってたんだ。前が見えづらいの分かってたのに」  そこでハッとした顔で、裕貴さんが僕の顔を見る。それから「やっぱり、この話はやめよう」と表情を曇らせる。

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