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「良いよ。続けて」  僕が促すと、裕貴さんが躊躇うように視線を落とし、髪をかき上げた。 「そこで、俺は……車にひかれそうになった。だけど、奏汰が助けてくれて助かったんだよ」 「僕は命の恩人ってわけだね」  裕貴さんは静かに頷く。さっきまでの明るい調子は、少しなりを潜めてしまう。 「奏汰が腕を引いて、俺は尻餅をついた。そこで怒られたんだ」 「そうだったかなぁ」 「ああ。凄い剣幕で、僕より年上なんだから、しっかりしてくださいってね」 「そういえば、そんなこと言ったかも。生意気な子供だと思ったでしょ?」 「そんなことない。雷が鳴ってないのに、俺の中では雷が落ちたぐらいの衝撃だった。だって、奏汰は男に見えないぐらい綺麗だったから」 「大袈裟だよ」 「そんなことない。今だって、変わらないぐらい綺麗だよ」  僕の手を握り、裕貴さんが僕の目を覗き込む。本当だったら、キスぐらいしたい。だけど、録音されていることを思いだし、僕はそれとなく身を引く。 「それから? どうなったんだっけ?」  僕が乗り気じゃないと分かると、裕貴さんは少しだけ不満そうな顔をした。それから諦めて、続きを口にする。 「それから、奏汰が傘を差し出してきて、俺を家まで送り届けてくれたんだ。俺はお礼がしたいって言って、断る奏汰をむりやり家にあげたんだ。それで色んな話をして、連絡先を交換して……あの時、俺は今までにないぐらい必死だったと思う」  それから照れたように、「がっつきすぎだって、思ったんじゃないのか?」と窺うように僕を見る。 「うん。そう思ってたと思う」  僕が頷くと「やっぱりね」と、裕貴さんが困ったように笑う。

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